【eco最前線を聞く】投資で環境、社会、企業統治に配慮


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 □損保ジャパン日本興亜 アセットマネジメントESGスペシャリスト・長束裕子さん

 環境保全に積極的な企業に投資するエコファンド「損保ジャパン・グリーン・オープン(愛称・ぶなの森)」が誕生したのは1999年9月。今では純資産残高約270億円という国内最大級のSRI(社会的責任)投信に成長した。このファンドを設定・運用しているのがSOMPOホールディングス傘下の資産運用会社でエコファンドのパイオニアといわれる損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントだ。最近では投資判断として環境(E)に加え、社会(S)、企業統治(G)に配慮するESGに注目、2017年4月に「責任投資推進室」を立ち上げ、企業が取り組むべきESGについて情報収集に乗り出した。その任務を担うのが運用企画部責任投資推進室ESGスペシャリストの長束裕子さん。各国エキスパートとの対話を求めて世界を飛び回る。

 ◆日本で4機関目の賛同

 --普段の仕事は

 「ESGを牽引(けんいん)する国連責任投資原則(UNPRI)やロンドンに拠点を置くNPO法人ICGNなどの動向をリサーチすることで、こうした国内外のイニシアチブ(機関)が開催する会合などに積極的に参加。ESGに関する最新動向をとらえて企業分析を担う当社アナリストにフィードバックしている」

 --最近の動きとして注目していることは

 「昨年9月にベルリンで開催されたUNPRIの年次総会に出席した。SDGs(国連の持続可能な開発目標)の概念をどのように投資に含めるかを協議。『クライメートアクション100+(プラス)』で温室効果ガス排出量の多い世界100社を発表、対策強化を働きかけていくことが決まった。また非人道的企業に対し投資資金を引き揚げるダイベストメントの動きもある。こうした情報を報告し、投資先企業に対する課題設定と対話をアナリストと協議している」

 --成果は

 「UNPRI総会後にICGNに行き、いったん帰国し上席に加盟機関になることについて相談、昨年11月に加盟手続きを済ませた。また昨年9月には温室効果ガス削減に向けた取り組みであるモントリオール・カーボン・プレッジに賛同表明の署名を行った。日本企業では4機関目で、世界の流れをつかんで社内に働きかけたことが奏功した」

 --ESG対応として企業に求めることは

 「統合報告書を通じた情報開示の充実が求められる。英語による発信も重要で、英語版でよく使われるキーワード、例えば『対話』の訳として『エンゲージメント』を使わないと対話していると認識してもらえない。またパリ協定(地球温暖化対策の国際的枠組み)やSDGsなど、国際イニシアチブが提唱する持続可能な社会への実現に向けた積極的な貢献も発信すべきだ」

 ◆ESG概念の拡大を

 --ESGの浸透に向け啓蒙(けいもう)活動が重要になってくる

 「日本は世界に比べ遅れている。ESGの概念を広げていくことが重要で、そのためにも情報の収集と発信に力を注いでいく。資産運用会社としてアクティブ運用に特化してきたが、これからもアナリストによるミクロ観点のESG活動と、ESGスペシャリストによるマクロ観点のESG活動を高い次元で融合。優れたリターンを提供するだけでなく、持続可能な社会の実現のために必要な運用会社を目指す」

 --スペシャリストとして責任は重い

 「ESG手法を取り入れて、投資家や関連団体に当社の存在感をアピールする。そのためにもグローバルなイニシアチブに積極的に関わっていき、有識者との接点を強化、ESGに関する知見を高めていく必要があると認識している」(松岡健夫)

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【プロフィル】長束裕子

 なつか・ゆうこ 一橋大社会学部卒。2009年DIAMアセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)入社。2016年損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントに移り、17年4月運用企画部責任投資推進室に配属されESGスペシャリストとして活動。東京都出身。