【光る社長 普通の社長】人が採れる会社と採れない会社

 □アジア・ひと・しくみ研究所代表 新井健一

 後継者不足を理由に廃業に追い込まれる企業は年々増え続け、日本が被る経済的損失は4兆円という。「今は売り手市場だから」と逃げてしまうのは普通の社長。光る社長なら、今すぐ“若い人が働きがいを感じる会社づくり”に着手すべきだ。

 例えば、ナプロアース(福島県伊達市、www.naproearth.co.jp/)は1996年の創業以来、廃車リサイクル業を生業としていたが、東日本大震災の津波によって工場を含めすべてを失った。池本篤社長は廃業も考えたが、ピンチを機に人事制度を改革、“若者が働きやすい企業”に生まれ変わらせた。

 成功の鍵を握ったのは「短期間で人材育成を可能に」という思いから生まれた独自の人事評価制度だ。考課者により誤差がないよう評価項目を300まで細分化し、徹底した“見える化”を実行した。

 人事評価はともすれば上司の個人的な主観が入る可能性もあるが、同社の制度は公正で平等、オープン。従業員は何を頑張れば評価され、報酬も上がり、昇格するかが一目でわかる。

 経験値が低い社員に「どう努力すべきか」「結果に結びつくポイントは何か」を働きながら見いだせというより、最初から会社が社員に求めているものを明確にしておく方が成長は早いともくろんだのだろう。

 従業員の成長を急いだ理由は、震災後に確保できた従業員40人のうちリサイクルエンジニアとして独り立ちしていたのは8人のみ、従業員の約80%がゼロからのスタートという状況だったからだ。「会社は動いていくのか」そんな思いがあっても社長に弱音を吐く余裕はない。とにかく“従業員が自動的かつ自発的に育つ仕組み”を懸命に考えた。

 結果、社長自らが音頭を取り従業員とともに試行錯誤を繰り返して完成させた人事評価制度は、会社と社員の認識のギャップを埋め、ベクトルを合わせ、邁進(まいしん)することを可能にした。

 仕組みはもちろんのこと“貢献への対価が約束されている”点が、現代の若者の思考にマッチしたのだろう。

 現在は震災前よりもさらに経営は順調、社長は月に5日ほど出社するだけで人事管理は事足りるようになり、残りの15日を新規事業のネタ探しや立ち上げに使っているそうだ。

 同社は他に“分かりやすく会社を知ってもらうための工夫”も行い、採用面でも成果を上げているが、その話は次回で。

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【プロフィル】新井健一

 あらい・けんいち 早大政経卒。大手重機械メーカー、外資系コンサルティング会社、医療・IT系ベンチャー役員などを経て、経営コンサルタントとして独立。人事分野で経営管理や経営戦略・人事制度の構築、社員の能力開発・行動変容に至るまで一貫してデザインできる専門家。45歳。神奈川県出身。