【高論卓説】パラ「聖地」目指す陸前高田 多様性社会実現へ被災地の歩み期待

 来月で東日本大震災から7年。わが国ではこの間、熊本地震や大雨による水害など各地で自然災害が頻発し、この冬は北陸を中心に大雪の被害が出ている。日本国民は、いつ自然災害が自分の身に降りかかってくるかもしれないと不安な日々を過ごしてきた7年だったと思う。その中で一条の光となるのは、東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた市町村が、未来に向けて力強く歩みを進めている姿だろう。

 私は2月初旬、岩手県陸前高田市を訪れた。最大12.5メートルの高さの防潮堤の本体工事は順調に進み、「奇跡の一本松」の向こうに海は見えない。一方で、6000人の居住を想定する新たな街の総事業面積約300ヘクタールのうち、126ヘクタールを超える、かさ上げが必要な土地の現況を見て、「何も変わっていない」との印象も残った。10メートル以上のかさ上げゆえに工期は長く、それなりに進捗(しんちょく)しているのだろうが、素人目には、「本当にここに新しい街がつくれるのだろうか」と思うばかりだった。立春を過ぎたとはいえ、風花の舞う寒い日に小一時間、市内を車で回ったが、少子高齢化、人口減少という現実もあり、「果たして間に合うのか」という焦燥感が募った。

 その後、地元の復興街づくりを担う団体「マルゴト陸前高田」を訪ねた。そこで、そうした懸念を払拭するような話を聞くことができた。それは、陸前高田市を「パラスポーツの聖地」にしようという構想である。具体的には、日本障がい者サッカー連盟(北澤豪会長)と連携を取りつつ、合宿や試合の誘致を図る取り組みで、大手企業も支援する姿勢を示しているという。

 障害者サッカーというと、パラリンピックの正式競技であるブラインドサッカーが有名だが、そのほかに下肢・上肢の切断障害のある選手がプレーするアンプティサッカー、脳性まひ者の7人制サッカー、知的障害者の11人制サッカー、精神疾患・精神障害のある選手がプレーするフットサル、電動車椅子サッカー、ろう者サッカーの6種類がある。

 マルゴト陸前高田では、市民に対して障害者が真剣に競技に取り組み、楽しんでいる姿を知ってもらうためさまざまなイベントを開催していくという。陸前高田市では、復興の方針として、「ノーマライゼーションという言葉のいらないまちづくり」を掲げている。その趣旨は、困っている人がいれば助けるのが当たり前、ノーマライゼーションやバリアフリーという言葉すら意識する必要のない社会を実現しようというものだ。

 その方針を受けて、障害者サッカーの合宿や試合の誘致に加え、障害者の教育を担う各種学校の修学旅行などの受け入れも行うことで、障害者が身近で活動していることを市民が当たり前の光景として受け入れる雰囲気づくりを進める取り組みだ。

 パラスポーツに取り組む人たちの雇用の場の創出も考えていて、行政や農業・漁業などの現場などで雇用機会を用意するとともに、定住のための環境整備、例えば空き家のリノベーションを行うという。

 復興街づくりには、市民と行政、大学、企業の連携が必要であるばかりか、周辺の自治体との協力も求められてくる。南隣の市は宮城県気仙沼市だが、県境を越えた取り組みも不可欠で、これにより地方自治制度の改革をリードすることも可能になる。企業や行政の関係者、学生などこれからの社会を担う各地の若い世代が、ダイバーシティー(多様性)社会の実現を基本に据えて復興を進めようとしている被災自治体に足を運び、さまざまなプログラムに参画することで、全国にその種がまかれて、大きな樹に育っていくことを期待したい。

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【プロフィル】井上洋

 いのうえ・ひろし ダイバーシティ研究所参与。早大卒。1980年経団連事務局入局。産業政策、都市・地域政策などを専門とし、2002年の「奥田ビジョン」の取りまとめを担当。産業第一本部長、社会広報本部長、教育・スポーツ推進本部長などを歴任。17年に退職。同年より現職。60歳。東京都出身。