日本人の平均寿命は毎年着実に延びている。最新の統計によれば2016年の日本人の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳である。これに対して1947年の平均寿命は男性50.06歳、女性53.96歳であった。およそ70年の間に平均寿命は男性で31年、女性で33年も延びているのである。
一方、45~54年の民間企業の定年は55歳から60歳であった。男性の平均寿命が50代前半であったときは55歳定年という制度はそれなりの合理性があったと考えられる。
平均寿命が50代前半の時代に55歳を定年としておけば、大半の男性社員は55歳までに死んでいるか、就労不能の健康状態になっている可能性が高かったからである。定年退職後の就労や健康保険の負担は本人にとっても会社にとっても少なかったはずである。
その後70年たって日本は急速に豊かになり、国民の健康状態も著しく改善し、その結果、男性の平均寿命は31年延びた。ところが、大半の企業の定年制はいまだに60歳から65歳程度にすぎない。平均寿命が31年延びたのに、定年はせいぜい5年から10年程度しか伸びていない。
古い制度が、急変した現実に追いついていない典型例である。この結果、個人の人生設計を見直さなければならない深刻な事態が生じたほか、年金負担の増大、健康保険会計の膨張など、国の財政基盤を揺るがすような状況に至っているのである。