【開発物語】クロスフォー「ダンシングストーン」

「ダンシングストーン」のネックレス
「ダンシングストーン」のネックレス【拡大】

  • モデルが着用しているサングラスにもダンシングストーンが埋め込まれている
  • ジュエリー展示会でダンシングストーンについて説明する土橋秀位・クロスフォー社長=3月1日、香港
  • 本社の2階にある企画担当の仕事場とメンバー。左から2人目は土橋秀位社長=山梨県甲府市
  • 東京都内のジュエリーショップ。国内市場は厳しい環境下にある(ブルームバーグ)

 ■独創性あるカットと機構で新市場開拓

 ≪STORY≫

 「ダンシングストーン」というジュエリーが空前の大ヒットになっている。“動きだしたら、止まらない”というキャッチコピー通り、人間のわずかな動きをジュエリーの細かな振動のエネルギーに変え、動き続けるセッティング方法だ。開発したのは、山梨県甲府市に本社を構えるジュエリー業界の“風雲児”、クロスフォー。次々と新たな挑戦を繰り出す同社は、地域にとっても期待の星だ。新たな宝飾の世界を切り開く同社の躍進はいかにして実現したのか。

 同県出身の土橋秀位(ひでたか)氏は、大学に進学すると、世界を放浪するような仕事に魅力を感じるようになったという。そこで着目したのは、郷里である山梨県の地場産業“宝石”だった。

 「武田信玄は水晶の念珠を手放さなかったといいますが、この辺りは水晶の大産地だったことから宝飾産業が大きく発展しました」(土橋氏)

 地元産出の水晶を加工する形で始まった地場産業。実に1000年以上の歴史がある。生産量は国内の3割を占め、今でも1000社を超えるジュエリー関連企業がひしめく。中でも甲府市は、ドイツのイーダー・オーバーシュタイン市と並び「世界二大宝石加工の街」といわれている。

 土橋氏は、放浪先の東南アジアなどで原石を調達し、甲府の巨大宝飾産業に向けて提供しようと考えた。そのために、大学卒業後は米国で宝石学を学び、世界的な鑑定資格も取得した。そして1980年、クロスフォーの前身となる宝石輸入販売会社、土橋宝石貿易を創業した。

 87年には同様の事業を手掛けるシバドを設立して事業を株式会社化する。東南アジアの山奥まで自ら分け入り直接原石を買い付けるという独自の展開が奏功し、バブル経済が頂点に達した90年には30億円を超える売り上げを実現した。法人化してわずか3年。事業は順調に拡大していく。

 しかし、その直後にバブル経済は崩壊。90年代半ばには、ジュエリー市場もかつてない未曽有の低迷にさいなまれる。

 「原石の輸入販売だけでは厳しい。新たな市場を創出しなければ…」(土橋氏)

 メーカーとしての挑戦は、ここから始まった。

 土橋氏は、自らジュエリーの研究開発に乗り出した。特に留意したのは差別化だ。他社がやっていないこと、新しいものを作らねばならなかった。そうしなければ、創業以来原石を購入してもらってきた顧客と競合してしまう上、市場で価格競争に巻き込まれてしまう。企業の存続をかけた商品開発。期間は3年にも及んだ。

 それでもあきらめなかった。「成功するまであきらめなければ失敗にはならない。あきらめたら、その時に失敗になる」(土橋氏)

 こうして99年、同社は独自に発明した46面体カット「クロスフォーカット」を実用化。2001年には特許も取得した。このカットは、光の反射による効果で宝石の中にクロス(十字)のデザインが浮かび上がる。その独自性が評価され、名実ともにメーカーとして歩み出すことになった。

 02年には社名も「クロスフォー」に変更。これを機に、原石の輸入販売会社から製造販売会社へのシフトを強めていくことになった。

 「独創性で新たな市場を生み出したい」(土橋氏)。その強い思いは10年に大きく花開いた。同社の名を世界にとどろかせることになる「ダンシングストーン」を開発、この機構を採用した商品の投入が始まった。

 鋭利にとがった接合部を持つ丸環でぶら下げた宝石は、人間の呼吸や鼓動といったわずかな動きにも反応。付けている限り動き続ける。動き続けることで光を反射し続け、これまでになくキラキラと輝くジュエリーという開発目標が達成された。13年には特許も取得。そのブランド名は世界に広がっていった。17年7月には東証ジャスダックに株式上場を果たしている。

 同社は常に独創性を追い求めてきた。と同時に、開発・製造面では競争ではなく共生が重視されてきた。原石の輸入販売会社だった創業時の顧客である甲府の宝飾メーカーとは、商品開発の面では協力し合う関係にある。自らは工場を持たないファブレスだが、基幹部品の製造や前例のない技術の商品化は、世界的な宝飾加工産業が集積する甲府の企業と職人が担ってきた。

 この考え方は、今後の展開についても変わらない。「世界の市場で他の著名なジュエリーメーカーと競争するのではなく、むしろこの機構を採用してもらいたい。サングラスなど、アクセサリー以外のものにも取り付けることは可能だ。今後はそういう分野にも採用を促していきたいと考えている」(土橋氏)。

 ジュエリーの枠を超え始めたダンシングストーンの動きは、もう止まらない。

                  ◇

 ■発想力と地場産業の技術力が融合

 ≪TEAM≫

 独創的な商品の創出で新たな市場開拓を目指すクロスフォーでは、土橋秀位社長自ら研究開発の先頭に立ち、企画立案からアイデアを形に変えるためのさまざまな取り組みをリードしている。

 甲府市内のひときわ目立つユニークな社屋の2階には、社長ほか6人の企画担当の机が並ぶ。この本社ビルは2017年に完工したばかりだが、企画開発のスタイルは昔のままだ。

 思いついたアイデアをここで具体的なイメージにしていく。「デザイナーに具体的な形を示してもらい、これを図面化。それを実現できる地元の加工業者や職人とも相談しながら試作を繰り返していきます。実際の商品になるまでに、発想してから2~3年はかかります」(土橋氏)

 ダンシングストーンも、土橋氏の発案を企画担当者や社外のデザイナー、加工業者や職人の協力体制のなかで商品化していった。最近では、社員の発案で商品開発がスタートすることもあるという。

 しかし、商品まで漕ぎ着けるスキームは変わらない。特に注目すべきは、世界トップレベルとされる地元甲府の宝飾加工業者や職人の技術力だ。世界を相手に商品を供給する土橋氏だが、地元に仕事を回しているという意識はない。

 「いろいろお願いすることばかりです。品質はもちろん、これまでにないものを実現する上で、甲府の宝飾産業はなくてはならない」(土橋氏)

 そういう意味で、クロスフォーカットやダンシングストーンは、土橋氏率いるクロスフォーの発想力や企画開発力、プロモーション力などと、甲府の地場産業が培ってきた技術力や経験の融合から生まれたものともいえる。

 「1.5ミリほどのパーツを接合する技術などでは特許を取得しなかった。こういう部分は特許を取ることでかえってまねされる」(土橋氏)とも。そんな加工技術を持った地元との連携はかけがえのない強みだ。

 開発を進めている新商品だろうか。企画担当が集う一角には、試作品とおぼしき小さな金属の部品がプレートの上に並べられていた。

 ここでは今日も、土橋社長、企画担当、デザイナー、そして地元の職人がアイデアの実現に向けて知恵を絞るのだろう。

                  ◇

 ≪MARKET≫

 ■国内厳しい半面、中・印などで需要旺盛

 1990~91年のバブル絶頂期には3兆円規模といわれた日本のジュエリー市場だが、バブル崩壊以降は急速に縮小。2008年のリーマン・ショックで1兆円を、東日本大震災で9000億円を割り込むなど、厳しい環境が続いている。矢野経済研究所が昨年3月にまとめた16年の国内宝飾品小売市場規模は9413億円。少子高齢化や若年層の所得水準の低迷などが大きく響いている。

 ジュエリー市場の98%は女性向けであることから、女性の社会進出が活発化しているのは好材料だ。しかし、人口が減少する日本市場の場合、飛躍的な市場拡大は見込めない。

 半面、経済発展の続く中国やインドなどでの需要は旺盛。今後も増大するとみられている。現地では、まだまだジュエリーを資産として持つような面もあるというが、経済発展に伴う欧米風ファッションの浸透などで、アクセサリーとしてのニーズも急拡大しているという。

 そういう意味で、今後ジュエリー市場での存在感を高めていくためには国際競争力が不可欠だ。と同時に、こうした市場で選ばれる商品価値、独創性が欠かせない。

                  ◇

 ≪FROM WRITER≫

 地方経済の活性化、地方創生が強く求められているが、クロスフォーの挑戦はその好例の一つといえそうだ。

 甲府は古くから宝飾加工産業の集積地として発展してきた。しかし、バブル崩壊後は潮流が大きく変わった。メーカーからの仕事の発注は減少。ジリ貧が常態化する。

 これは、多くの企業城下町にも共通した現象だ。高い技術力やノウハウがありながらも、それらを育て活用してきた大企業の撤退などで地場産業もろとも衰退していく。

 中間加工産業や部品などの下請け企業は、最終商品を生み出し市場を開拓していく機能やノウハウがないのだ。

 クロスフォーは、独創的な商品を開発し、市場を開拓していく。日本市場が不調なら海外、さらにはジュエリー市場以外にも採用の間口を広げようとしている。そして、彼らの独創的なアイデアや商品を甲府の技術が下支えしている。

 地方創生には、こうした強力な牽引(けんいん)力や消費者ニーズを引き付けるアイデアが求められている。(青山博美)

                  ◇

 ≪KEY WORD≫

 ■ダンシングストーン

 山梨県甲府市に本社を置くジュエリーメーカー、クロスフォーの土橋秀位社長が2010年11月に発明した宝石のセッティング技術。わずかな振動でも動き続けるジュエリーを実現する。この機構を持つジュエリーの総称であり、ネックレスやバッジなど、さまざまな商品が生み出されている。価格は1万円程度からで、今後はサングラスなど純粋な宝飾品以外にも用途を広げていく考えだ。