【高論卓説】中古木造住宅の劣化診断研究 定量評価の確立で売買に信頼

 国立研究開発法人建築研究所の講演会が3月2日、東京・有楽町で開かれた。藤井敏嗣・東京大学名誉教授が「わが国の火山活動の現状と今後」と題して講演したほか、建築物の防災や劣化の評価などについての研究成果を研究員らが報告した。

 報告で目を引いたのが、槌本敬大・上席研究員による「既存木造住宅の躯体の生物劣化発生確率に関する分析」である。

 中古木造住宅の売買を活性化し、ストックを有効活用することは、持続可能な社会の構築につながるとされる。国土交通省は、長期優良住宅認定制度の策定や既存住宅耐震改修の減税措置などを打ち出しているものの、十分活性化しているとはいえない。

 ネックになっているのが、木造住宅では構造躯体に劣化があるかないか、あるとすればどの程度なのかを把握するのが難しいことだ。

 そこで、国交省国土技術政策総合研究所は、日本列島各地から103棟の木造住宅を抽出し、現況調査と構造躯体の劣化状況を調べた。「現況調査から得られた情報」と、解体して分かった「実際の劣化状況」との相関を得ることで、木造住宅を壊さずに劣化の度合いを推定できないか、というわけだ。

 槌本研究員は、調査結果をデータ化して住宅を90センチ四方の小ユニットに分割。腐朽やシロアリの食害などによる生物劣化の有無、種類や程度と住宅や立地環境の情報、計202項目の相関を分析した。

 対象の住宅は築後14~63年。ほとんどが軸組構法の2階建て。省エネ基準の地域区分で寒冷地域、標準地域、蒸暑地域に分布する。

 総ユニット約6万5000件のうち、現況調査で水浸みのあとや仕上げ材の変色、ひび割れなどの変化を認めたのは5667件。解体して実際に生物劣化を認めたのは1421件だった。

 現況調査で変化を認めたユニットのうち90%以上で、実際には躯体に生物劣化は生じていないことが分かった。逆に、現況で変化がないにもかかわらず躯体に生物劣化が生じているものは約1.6%にすぎなかった。

 現況調査で見抜けない躯体の生物劣化は2階より1階に多く、外周部がそれ以外より多く、床組、壁、小屋組の順に多かった。現況の変化と生物劣化の発生の齟齬(そご)は築年数が古くなるとともに大きくなる、ことなども分かった。

 この分析から槌本研究員は、「現状の変化が認められても構造躯体の生物劣化が生じている可能性は極めて低い。短絡的に解体せず、原状復帰が容易な方法で構造躯体の劣化を発見するのが望ましい」と説明した。

 また、現況の変化がない部分に発生している生物劣化は圧倒的に1階が多いので、2階より1階を慎重に、なかでも1階の外壁と1階の床をより慎重にチェックすべきだという。築年数や防湿コンクリートの有無にかかわらず、布基礎の床、基礎高さの低い床、北側に面する部分、軒の出が短い階の壁についても、該当しない場合より生物劣化の可能性は高いので、慎重に調べるよう提案した。

 こうした知見を蓄積し、中古木造住宅の評価に生かすことで、信頼に足る売買ができるようになる。国交省や業界には、ぜひ定量的な評価手法の確立を期待したい。

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【プロフィル】東嶋和子

 とうじま・わこ 科学ジャーナリスト。筑波大・青山学院大非常勤講師。筑波大卒。米国カンザス大留学。読売新聞記者を経て独立。著書に『人体再生に挑む』(講談社)、『水も過ぎれば毒になる 新・養生訓』(文藝春秋)など。