【高論卓説】乱高下の火種くすぶる株式市場 予測困難な「トランプ砲」が翻弄

 新年度入りした内外の株式市場は波乱含みで始まった。米国では2日(現地時間)、ダウ工業株30種平均が一時前週末比750ドル余り下げ、年初来安値を更新した。これを受けて3日の日経平均株価は大引けこそ前日比96円安と下げ渋ったものの、下げ幅は一時330円を超えた。米中貿易摩擦の高まりへの警戒感が強まったのが背景だ。翌日には日米の株式市場とも落ち着きを取り戻したが、波乱、乱高下の火種はくすぶり続ける。

 中国は2日、果物、豚肉、ワインなど米国からの輸入品128品目に最大25%の関税を課した。トランプ米政権が先に鉄鋼に25%、アルミニウムに10%の関税を課したことへの報復措置である。トランプ政権は中国による知的財産権の侵害をかねて問題視してきた。大統領権限で強力に貿易を制限する「通商法301条」の発動も準備している。公表された原案によると、対象は中国からの輸入品約1300品目、500億ドル(約5兆3000億円)相当に及ぶ。実際に発動されれば、中国との間で報復合戦が始まるのは必至である。

 米国と中国は似た者同士。「Make America Great Again(アメリカを再び偉大に)」。これはトランプ大統領の選挙期間中のスローガン。一方、任期制限を撤廃した中国の習近平国家主席は「中華民族の偉大な復興」を標榜(ひょうぼう)し、長期政権に臨む。トランプ大統領と習国家主席の志向は似る。

 中国文学の泰斗・吉川幸次郎(元京大教授、故人)は論考の中で「漢帝国とこの国(米国)とは、いろんな点で類似する」と記した。共通する精神として、「量、列挙、力への愛好」を挙げた。似た者同士はいざこざが起きると対立が先鋭化し、敵愾(てきがい)心が募る。

 米中貿易摩擦が強まるたびに株式市場は動揺し、乱高下しよう。内外の株式市場はトランプ大統領の言動に振り回されっぱなしだ。不動産業を長く営んだトランプ大統領は「ディール(取引)のプロ」を自認する。交渉は「強気発言」から始まる。時にブラフ(脅し)も使って相手を驚かせ、たじろがせて交渉を有利に運ぶのが常套(じょうとう)手段だ。

 今月中旬の日米首脳会談と動き出した米朝首脳会談、そして5月のエルサレム訪問などでどんな“ビックリ発言”が飛び出すか予測がつかない。閣僚、補佐官、政府高官らの更迭劇も終わったわけではない。11月の中間選挙が近づけば過激発言が頻発するかもしれない。人の性格は容易に改まらない。トランプ大統領の直情径行は改まらないだろう。

 旧知のアナリストOBが個人的なリポートを発信している。最近のリポートで「ブラック・スワン」を列挙し、トランプ大統領の辞任と安倍晋三首相の退任を入れた。ブラック・スワンは予想困難だが、実際に起きたときに衝撃が大きい事象を指すマーケット用語である。確度は示されていないが、アナリストが政治リスクの高まりを警戒していることがうかがえる。「浮生は夢の若(ごと)し 歓びを為(な)す幾何(いくばく)ぞ(人生は夢のよう。喜び楽しむ時間はどれほどあるのだろうか)」。李白の漢詩「春夜桃李園に宴するの序」の一節だ。新年度の株式市場は投資家にとって喜ぶ時間は短く、驚き、悩む時間が長くなりそうな気がしている。

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【プロフィル】加藤隆一

 かとう・りゅういち 経済ジャーナリスト。早大卒。日本経済新聞記者、日経QUICKニュース編集委員などを経て2010年からフリー。68歳。東京都出身。