【マネジメント新時代】隣国に学ぶ経済活性化のカギ

テンセント本社など高層ビルが立ち並ぶ深セン市の中心部(ブルームバーグ)
テンセント本社など高層ビルが立ち並ぶ深セン市の中心部(ブルームバーグ)【拡大】

 □日本電動化研究所 代表取締役・和田憲一郎

 最近、経済・科学面で中国のニュースが新聞紙面を飾ることが多くなってきたように思える。例えば、世界知的所有権機関(WIPO)によれば、2017年の特許出願件数は、中国が日本を抜き、米国についで第2位に躍進した。またWIPOは、3年以内に中国が米国を抜き、第1位に躍り出ると予想している。

 なぜ急激に、経済・科学面で中国が躍進しているのであろうか。中国のイメージは、どちらかといえば、模倣が得意であり、独創的な技術やアイデアを創出することは苦手ではないかと思っていた。しかし、このように躍進が続くと、何か仕組みや仕掛けがあるのではと思ってしまう。この3月上旬に久しぶりに深センを訪問し、その一端を垣間見たので、それについて述べてみたい。

 柔軟・多様な支援・国際性

 中国の深センといえば、約50年前は人口5万人程度の一漁村に過ぎなかったが、現在の都市地域人口は約1500万人に達し、北京、上海、広州に次ぐ中国第4の都市に位置づけられている。深センは香港と接することから多くの香港企業を誘致し、香港資本の中国移転を図っている。平均年齢は34歳と極めて若い。なぜこのように急激に成長できたのか、改めて訪問し、そのカギは3つあるように思えた。

 まずは、企業の考え方が柔軟であることだ。日本では、1つの産業に従事すれば、他の分野に参入することは少ない。自動車企業は自動車関係のみ、住宅企業は住宅関係のみという具合である。一方、深センを代表するジャイアント企業に、テンセントがある。「微信(ウィーチャット)」などのモバイルビジネスを手始めにゲーム、QRコードによる支払い業務、さらには金融へも業務拡大している。本社で話を聞くと、まるで巨大な銀行かと思うぐらい、業態を変え拡大している。

 電気自動車(EV)で有名なBYDも同様である。本社を訪れると、新エネ車のEVやPHEVのみならず、太陽光発電、蓄電池、モノレール開発も進めており、話によれば、地方自治体と一緒になって都市交通システムも開発している。10年後には自動車会社と言うより、社会インフラ企業と呼ぶことがふさわしいのではと思ってしまう。

 2つ目は、ベンチャー支援の政府機関、大学などが整っていることだ。深セン市は、起業することを奨励しており、「創業広場」と呼ばれる政府による場所を格安にて提供し、数多くのベンチャーを支援している。また、深セン大学は、通常の大学ではなく、起業家養成所として起業の基礎から実践までを専門に教えている。

 まるで、ベンチャー「虎の穴」のようである。このような中から、ドローンで世界シェア8割といわれるDJIや、数多くのベンチャー企業が育ってきた。

 3点目は、他地域からの参入に対する許容度が広く、国際的であることだ。北京、上海などからの参入、さらには「海亀(ハイグイ)」と呼ばれる、海外を一度経験した人のUターン組が多い。深センだけでも約8万人以上の海亀がおり、深センの外はすぐに世界(グーグルなどの海外有力企業)とつながっているという意識が強い。

 このため、容易に世界の有力企業とコンタクト可能である。

 持てる力・人材の駆使必要

 これまで中国といえば、模倣が多かったのを、新たな仕組み、仕掛けなどにより克服し、中国新規ビジネスの橋頭堡(きょうとうほ)のごとく活性化している。ひるがえって日本はどうであろうか。少子高齢化、人口減少の中、経済活性化しようにも、他国と同じことはできない。

 そのため、ヒントとなるのかもしれないが、塩野七生さんは、著書「逆襲される文明」の中で次のように言っている。「長期にわたって高い生活水準を保つことに成功した国と、一時期は繁栄しても、すぐに衰退に向かってしまう国がある。つまり、うまくいかなくなった時期に、危機をどう克服したかで分かれる」と。克服のカギは持てる力や人材を活用できたかであると。停滞期に入ると、人材を駆使するメカニズムが機能しなくなってくると指摘する。

 振り返ってみると、日本でもこれまで多くの産業が繁栄し、その後衰退してきた。今後も危機が訪れるかもしれないが、どう社会のサビを取り払い、残っている優秀な人材を活用できるかがカギとなるのかもしれない。

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【プロフィル】和田憲一郎

 わだ・けんいちろう 新潟大工卒。1989年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、2005年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。13年3月退社。その後、15年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。61歳。福井県出身。