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3時間→10分に短縮! 吉野山の偉業にみる観光地の渋滞解消法 (5/5ページ)

 「すり合わせ型のマネジメント」が重要

 柏木氏が示すように、吉野山の交通需要マネジメントは、現時点では試行錯誤の途上にあり、完成形に達したわけではない。しかし2006年以降の交通渋滞の大きな改善は注目に値する。これは先に述べたように、日本の観光地の交通需要マネジメントにあっては希有の事例である。

 われわれは、そこから何を学ぶことができるか。

 吉野山にJTBが持ち込んだのは、観光地において顧客がすごすトータルな時間の価値を高める取り組みである。しかもJTBはこのホスピタリティの改善を、赤字だった交通需要マネジメントを黒字に転換しながら実現している。

 さらに注目したいのは、そこでJTBが、赤字対策、通行証の発行、民間駐車場への配慮など、地元の不安や実情と向き合い、各種の利害関係者とのすり合わせを、粘り強く進めていたことである。JTBが一方的に主導したのでもなければ、地元の要望を単純にたし合わせたのでもない。全体の効果をにらみながら、個々の調整と対策がねられていった。このすり合わせから生まれたマネジメントに派手さはないが、成功確率の低い事案での偉業あることを考えると、そこで生まれた新結合をイノベーションと呼んでも差し支えはないだろう。

 観光地にかぎらない。日本の企業や地域がイノベーションを実現していくためには、この多くの利害関係者と向き合うなかから編み出される、すり合わせ型のマネジメントが重要となるはずである。

 栗木 契(くりき・けい)

 神戸大学大学院経営学研究科 教授

 1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

 (神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契 写真=時事通信フォト)(PRESIDENT Online)

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