【光る社長 普通の社長】懐に踏み込んでいかない日本人

 □アジア・ひと・しくみ研究所代表 新井健一

 ベトナム政府が工業製品や輸出製品、ハイテク製品の製造業、またはそれらに対するサービス業を行う投資家を誘致する目的で工業団地や輸出加工区、経済特区を設けてから20年以上が過ぎようとしている。

 2008年をピークに、建設された工業団地の数は優に250カ所を超え、現在はベトナム、シンガポール、タイ、韓国、中国、台湾、日本などアジア系企業が軒を連ねている。

 さて、そこで働くベトナム人の間で日系企業は実に人気がないことはご存じだろうか。

 JACリクルートメントベトナムの前マネージメントディレクター、加藤将司氏は、日本企業の不人気の原因を“採用能力およびコミュニケーション能力の低さ”と分析する。

 加藤氏は大企業にありがちな「誰だってわが社に入りたいはず」という“待ちの採用活動”をこのまま続けるのであれば、やがて優秀な人材はすべて他の国・地域へ流れてしまうのではないかと懸念している。

 なぜなら、シンガポールや台湾、韓国の企業は欲しい人材が見つかれば、即刻企業側からアプローチを仕掛けるからだ。誰だって自分の能力を高く評価し「その力が必要」と口説かれれば悪い気はしない。さらに目の前に提示される報酬額が日系企業よりも高いのだから、日系企業に勝ち目がないのは火を見るより明らかだ。

 「ベトナム人の懐に踏み込んでいかない日本人」。これは外国人技能実習生を受け入れる上でも気を付けたいポイントだ。

 プライバシーに踏み込まない、相手の立場をおもんばかるという教育を受けた日本人ゆえに、正しくは踏み込んでいけないのかもしれないが、ここは意識して踏み込んでほしい。

 実際に彼らは、懐に入り込み家族や恋人の話など個人的な話をしない日本人との間に、大きな壁があることを感じている。

 その証拠に日本人ボスが自分たちに興味を持たない様を「日本人は日本人街で日本食を食べ、ベトナム人の愚痴を言ってハイヤーで帰っていく」と表現する。よく見ているし、うまい言い回しだ。

 彼らが望んでいるのは企業の大看板などではなく、個人と個人の信頼関係や家族のことを含めて何でも気軽に話し合える血の通った関係性だ。日本企業に「この人がいるから働きたい」と思える職場つくりを求めているようだ。

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【プロフィル】新井健一

 あらい・けんいち 早大政経卒。大手重機械メーカー、外資系コンサルティング会社、医療・IT系ベンチャー役員などを経て、経営コンサルタントとして独立。人事分野で経営管理や経営戦略・人事制度の構築、社員の能力開発・行動変容に至るまで一貫してデザインできる専門家。45歳。神奈川県出身。