【講師のホンネ】ベテラン社員の活性化を考える 山本英二


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 企業人教育の講師として、ベテラン社員の動機づけに関する研修を実施することが増えている。管理職として組織運営に携わる人や専門性の発揮に意味づけができている人はともかく、対象者の何割かはかつて放っていたであろう輝きを閉じ込めているように見える。寄らば大樹の陰よろしく、保証された安定だけを頼りに、残された時間が無難に過ぎることをひたすら待っているかのようだ。

 昨年7月、医師の日野原重明先生が105歳で逝去された。恥ずかしながら先生の成された業績について解説し語れるほどの知見は持ち合わせていない。ただ、人間の可能性について新たな道を示していただきたいという思いがあり、先生の活躍をメディアで知る度に勇気づけられていた。そんな先生のご逝去の報に衝撃を受けていた矢先に、父が他界したことなども契機となり、人間の一生というものについて真剣に考え、自分なりの答えを持たねばという危機感が芽生えてきた。しかしながら、その問いかけの難しさ故、いつしかそれは棚上げされてしまっていた。今年4月に日野原先生の最後の1年を追ったドキュメンタリー番組を見る機会があった。死期が迫った先生はベッドの中でこう語った。「命というものは自分の持っている時間のこと。使える時間を人のためにどう使うかなのです」

 私は反射的にメモを取った。自分で見つけた答えではないが、腹に落ちた。

 近年、両親をはじめ、かつて夢を語り合った同い年の仲間や、お世話になった先輩、上司など近い人たちが少なからず旅立っていった。自分の持ち時間があとどれくらいなのか知る由もないが、限られているのは間違いない。日野原先生の言葉のように、その限られた時間を人のためにどう使うのか。昨日、出張帰りの新幹線でこの問いかけを考えていたら、やりたいことが次々浮かんできて、ポジティブなエネルギーが流れ出すのを感じた。

 長く生きてきたからこそ感じ取れる機微があるとすれば、残り時間を人のためにどう使うのかという問いかけの意味を、ベテラン社員の方々は捉えられるはずである。期待を込めてそう思いたい。講師という役割に感謝しつつ、今後も本質的な問いかけを続けていきたい。

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【プロフィル】山本英二

 やまもと・えいじ 1963年、兵庫県出身。国家資格・2級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。30歳で脱サラし中国貿易商社を起業するも、40歳目前で倒産。半年間の引きこもり後、人材教育分野で再起を果たす。組織・人材開発領域を専門とし、ワークモチベーション、リーダーシップ、キャリア開発に関する研修、個別コーチングを幅広く実施。