【21世紀を拓く 知の創造者たち】タニタ グラフ付きデジタル温湿度計

高橋静香さん
高橋静香さん【拡大】

  • 芹田真希さん
  • 久保田朋実さん
  • タニタグラフ付温湿度計「TT-580」

 □「TT-580」

 ■室内環境の変化を“見える化”

 タニタが2月に発売したグラフ付きデジタル温湿度計「TT-580」は、24時間の温湿度変化を1時間ごとに棒グラフで表示する、まったく新しいタイプの温湿度計だ。定点での表示だけだったこれまでの温湿度計の世界に新風を吹き込み、新しい用途展開が期待されている。開発に携わった企画担当や技術者、デザイナーに狙いや将来展望などを聞いた。

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 □高橋静香さん 分かりやすさ追求

 ▽たかはし・しずか 生産戦略本部 量産設計センター 技術3課

 □芹田真希さん 最適な表示に苦心

 ▽せりた・まき 生産戦略本部 量産設計センター 技術1課

 □久保田朋実さん 伝え方を試行錯誤

 ▽くぼた・ともみ デザイン部

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 --「TT-580」の開発では何を担当されましたか

 高橋 主にソフト設計とテストを担当しました。これまでの温湿度計は数値を表示するだけだったのですが、変化を追ってグラフ化するという試みはソフト設計においてもやりがいがありました。企画要望に応えるため、温度や湿度にはどういう変化があるかを徹底的に調べ、変化量が分かりやすいグラフの表示を追求しました。

 芹田 商品企画を担当しました。もともと大学ではエンジン燃焼など熱力学を専攻していました。熱力学の世界では、1秒単位やコンマ数秒単位で、温度の変化を追うことが重要でした。ところが、就職して仕事をするようになると、一般家庭やオフィスでは温度変化をプロットすることや、そのための機器が普及していませんでした。そこに不思議というか、物足りなさを感じまして、ならば温度や湿度の推移が簡単にみられる機器を作れば(ユーザーに)おもしろい発見を与えられるんじゃないかと。もともと技術担当として入社したのですが、社内で「企画をやらないか」というチャンスをもらい、今回の企画を立案しました。

 久保田 私はデザイン部に所属していて、今回パッケージのデザインを担当しました。温湿度の変化をグラフィックで表す新規性の高い商品だったので、ユーザーに新機能をどうインパクトを持って伝えるか試行錯誤しました。芹田と相談しながら、「温湿度は、変化する」というキャッチコピーを主役にしたデザインを考えました。温湿度計のパッケージデザインは、前面に商品本体や写真を大きく配置するものが多いのですが、本商品はあえて商品本体を出さず、キャッチコピーを目立たせるデザインで勝負しました。

 --苦労した点は

 高橋 先ほども少しお話ししましたが、いかに見やすくグラフを演出するかをソフト設計の立場から追求しました。温度や湿度は、低くなってしまえばグラフの一番下に貼りついたままで、高ければ上に貼りついたままになってしまい、変化に乏しく見ていてもつまらないグラフになってしまいます。そこで、温度や湿度によってグラフの表示範囲を変え、変化を見えやすくする工夫をしました。例えば、温度変化の大きさによって1目盛の幅の表示を自動で切り替えるようにするために、温度と湿度がどのような条件のときにどのようなグラフ表示をさせるのかのパターンをすべて細かく洗い出しました。これが全部で100パターンぐらいありました。この洗い出し作業だけで1カ月、漏れがないかを確認するのに1カ月かかりました。ソフトを作るよりテストするのにかなり時間がかかった印象です。

 芹田 企画担当としてはグラフの変化をどのように見せるのかという仕様に苦心しました。「TT-580」は24時間の温湿度の推移、それに加え1週間分の推移がそれぞれ最適に見られるように2つのモードを採用しています。グラフ表示というのは難しいところがあって、例えば1週間のうちでも湿度が60%以上の雨の日もあれば、晴れて30%以下になる日もあります。1週間の温度と湿度を見るモードでは、1日ごとに最適化されたグラフの表示範囲を寄せ集めてしまうと絶対値が変わってしまい、一目で日々の変化を判断しにくくなってしまう。そこで、日々の変化を理解しやすいように、1日ごとではなく、1週間分の温度と湿度のデータからグラフの最適な表示範囲を算出しています。 他製品にはない機能なので、実際に使っていただくとその利便性を大きく感じていただけると思います。

 久保田 パッケージデザインの依頼が来たとき、おもしろい話だと思いつつ、ちょっと難しい案件でもあるなと感じました。変化をグラフ表示するというこれまでにない機能を訴求し、高級感を持たせてギフト用需要も開拓するというテーマに対し、うまく表現できるか、正直不安な部分もありました。ですが、満足できるパッケージに仕上げられたと思っています。弊社に届くアンケートでも「パッケージが良かった」とコメントを書いてくれた方もいて励みになっています。なかなかパッケージに対するフィードバックは少ないのですが、このように評価していただけるとチャレンジして良かったと思います。

 --さまざまな用途が期待されています

 芹田 家庭の快適な環境づくりに役立てていただくことが狙いですが、観葉植物やペットの見守り、管理にも便利とのことで予想以上の反響をいただいています。植物が置かれることの多い窓際は温度変化が大きく、園芸コーナーやペットコーナーなどこれまで温湿度計が扱われていなかった売場からのオーダーが増えています。

 --タニタはどんな会社ですか

 久保田 大手メーカーに就職した友人が「自分がデザインした商品が世に出るのがいつになるか分からない」と嘆いていました。タニタは中小企業ですが、商品カテゴリーが多いため、いろんなことにトライできます。いつも新鮮な気持ちで取り組めるのがいいと思っています。

 高橋 今回の温湿度計の前は家庭用の体組成計、今は業務用体組成計の開発に携わっています。一人でいろいろな商品を担当できるのが楽しいですね。ソフトが思うように開発できずに苦しむときもありますが、最終的に自分が関わった商品が売り場に並んで、それを手に取ってくれるお客さまを見ると、これまでの苦労がすべて報われた気持ちになります。

 芹田 今回の新商品もそうですが、社内で手を上げると、「やってみたら」と言ってもらえる環境にあると思っています。きちんと説明すれば、上司も理解し応援をしてくれ、挑戦しやすいと感じています。

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 ■グラフ付きデジタル温湿度計「TT-580」

 温湿度の推移を記録して24時間グラフで表示する機能を搭載したデジタル温湿度計。就寝時や不在時を含め、室内環境の経時変化を把握することができ、乳幼児や高齢者のほか、ペットや植物の温湿度管理が容易にできる。7日間分のメモリー機能も搭載、日々の変化を確認することもできる。価格はオープンだが、実勢価格は4000円前後。2月1日発売。

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【会社概要】タニタ

 ◆本社=東京都板橋区前野町1-14-2

 ◆社長=谷田千里

 ◆設立=1944年1月

 ◆資本金=5100万円

 ◆事業内容=家庭用・業務用計量・計測機器の製造・販売など

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 フジサンケイビジネスアイは「独創性を拓く 先端技術大賞表彰制度」を設けております。このシリーズは2017年の運営に協力いただきました協賛企業の研究開発活動を紹介するものです。