こうしてシカ踏切は28年5月、東青山駅構内に初めて設けられ、29年3月には奈良県宇陀市の榛原-室生口大野間にも設置された。
東青山駅構内では27年、シカとの接触事故が過去最高の17件を記録したが、設置後の3年間で被害はわずか3件。榛原-室生口大野間でも、同年に10件以上あった接触事故は設置後、1件にとどまり、効果が確認された。
シカ踏切は昨年度、日本デザイン振興会のグッドデザイン賞も受賞した。「人間が安全な踏切を必要とするように、シカにも安全な踏切が必要。犠牲となった多くのシカの存在により、シカの目線で問題を捉えることができた好例だ」(審査委員)と評価されたのだ。
シカ踏切は現在、近鉄が大阪線の青山町-伊賀上津駅間(三重県伊賀市)で設置準備を進めており、別のエリアでも導入を検討中。伊豆急行(静岡県)やJR西日本など別の鉄道会社も試験導入したという。
野生動物への「優しさ」から生まれたシカ踏切。匹田さんは「昔は鉄道もなく、動物社会があったところに人間が後から割り込んできた。シカと人間が互いに安心して暮らせる環境が整えば」と話している。