「シカ踏切」が絶大な効果、逆転の発想が生んだ近鉄の接触事故対策とは (4/4ページ)


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  • シカが線路を横断した状況を記した「鹿カルテ」(近鉄提供)
  • シカが嫌がる超音波を発するU-SONIC=奈良県宇陀市(近鉄大阪線・榛原-室生口大野間)
  • シカが線路を横断する様子(近鉄提供)
  • 「シカ踏切」の仕組み。線路沿いに柵を巡らせ、柵の隙間は必要に応じ超音波でシカの侵入を防ぐ(近鉄提供)

 こうしてシカ踏切は28年5月、東青山駅構内に初めて設けられ、29年3月には奈良県宇陀市の榛原-室生口大野間にも設置された。

 東青山駅構内では27年、シカとの接触事故が過去最高の17件を記録したが、設置後の3年間で被害はわずか3件。榛原-室生口大野間でも、同年に10件以上あった接触事故は設置後、1件にとどまり、効果が確認された。

 シカ踏切は昨年度、日本デザイン振興会のグッドデザイン賞も受賞した。「人間が安全な踏切を必要とするように、シカにも安全な踏切が必要。犠牲となった多くのシカの存在により、シカの目線で問題を捉えることができた好例だ」(審査委員)と評価されたのだ。

 シカ踏切は現在、近鉄が大阪線の青山町-伊賀上津駅間(三重県伊賀市)で設置準備を進めており、別のエリアでも導入を検討中。伊豆急行(静岡県)やJR西日本など別の鉄道会社も試験導入したという。

 野生動物への「優しさ」から生まれたシカ踏切。匹田さんは「昔は鉄道もなく、動物社会があったところに人間が後から割り込んできた。シカと人間が互いに安心して暮らせる環境が整えば」と話している。