【フジテレビ商品研究所 これは優れモノ】印刷業のノウハウ生かし画面で色再現

ソフトを内蔵した3Dカメラ付きのタブレット端末で、胸から頭部を撮影する
ソフトを内蔵した3Dカメラ付きのタブレット端末で、胸から頭部を撮影する【拡大】

  • 白地の胴体部分に好きな生地を合わせる。100万通りのスーツのコーディネートができる
  • 着物についても実用化がほぼ完成した

 □アスコン バーチャルフィッティングアバターシステム

 ビジネスの現場で、スマートフォンやタブレット端末を活用するシーンをよく見かけるようになった。小売店などでは、手書きの伝票を起こすことなく、タブレット端末内蔵のソフトを使い、商品の在庫管理から受発注までを行っている。保険商品の申し込みも、営業担当者のタブレット端末から直接できるようにした会社も現れた。今回の「これは優れモノ」は、タブレット端末で仮想の試着ができる日本初のソフトウエアを取材した。

 「バーチャルで試着ができるシステムを作れないか」-。アスコン第一事業部の木野本賢一さん(55)に、紳士服最大手の青山商事から打診があったのは2015年のこと。

 当時、青山商事はオーダーメードスーツの新規事業を計画していた。オーダーメードでは、自分の体形にフィットする一着が得られる半面、出来上がりの生地の色柄が、事前のイメージと違うこともある。また、採寸や事前の生地選びにも時間がかかり、若年層にとって、オーダーメードスーツは遠い存在でもあった。

 若者が使いこなしているスマートフォンやタブレット端末で、服地選びやサイズ選びができれば、顧客の選択肢も広がり、新たな需要を喚起できるという狙いがあった。「この世にないものを作れというのですから、手掛かりを求めてネットや文献をあさりました」。木野本さんは、畑違いの事業開発に乗り出した当初を振り返る。

 1986年に印刷業として創業したアスコンは、青山商事のグループ傘下で、全国に展開する「洋服の青山」の新聞の折り込みチラシ制作などを請け負っていた。

 「印刷業で培った色の再現のノウハウが、バーチャルでの試着システム作りに役立ちました」(木野本さん)

 例えば、紺色はビジネススーツの基本色だが、濃淡や色の違いもあるし、生地の素材や織り方でも発色が違ってくる。チラシ制作のときには、その微妙な違いを表現するのに苦労したという。

 今回は、紙ではなく、タブレット画面で見せる必要がある。デジタル撮影すれば色が忠実に反映されると考えたが、小さな生地見本を大きくする際に、実物とは違う発色になってしまったこともあったという。

 「最終的には人間の目で実物と比べ、色を再現していきました」。木野本さんは、アナログの知見がデジタル技術に生かされたと話す。

 さらに、バーチャル・システム開発では、顔や頭の形の立体感を出す仕組みが必要だったが、米国などで3Dカメラが幅広く使われているのを知り、これを応用することにした。

 こうして既存の技術をうまく組み合わせることで、開発から1年余りたった2016年2月、「バーチャルフィッティングアバターシステム」が完成した。

 木野本さんは「これを完成形で終わらせるのではなく、さまざまな分野で応用の効くシステムに育てていきたい」と抱負を語る。

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 ≪interview 担当者に聞く≫

 □アスコン第一事業部・木野本賢一氏

 ■着物は実用化めど、需要回復に貢献したい

 --全くのゼロからの開発だった

 当社が手掛けていた「洋服の青山」の折り込みチラシは、洋服の色合いを忠実に再現するのはもちろん、地域ごとに内容の違うチラシを短時間で作る必要があった。そこで、印刷の色を正確にいち早く全国の印刷所に送るため、自前でシステム開発をしてきた歴史がある。紙からデジタルへという、時代の変化に対応する人材の育成にも努めてきた。こうしたことが生かされ、「バーチャルフィッティングアバターシステム」が誕生した。

 --開発で苦労した点は

 生地見本がハンカチほどの大きさしかないので、これをスーツにしたとき、どんな色柄に見えるかを想定するのに苦労した。生地をデジタルカメラで撮り、撮影データをバーチャル上のスーツのデジタル模型に張り付けるわけだが、実物のようにしっくりこない。肉眼で見て、補正するという作業が必要だった。生地は1500種類にも及び、10人ほどの開発スタッフがアナログな作業を繰り返して完成させた力作だ。現在、100万通りのスーツのコーディネートができる。

 --操作方法は

 ソフトを内蔵した3Dカメラ付きのタブレット端末で、試着する人の頭部を360度撮影するだけ。体形は3パターンインプットされており、来店した顧客に近いものを選び、頭の写真を組み合わせる。体の部分は白地なので、ここに好きな生地を選んで貼るという仕組みだ。スーツだけではなく、シャツやネクタイ、靴などもコーディネートできるようになっている。実店舗でもこの方式が好評で、オーダーメード需要が拡大していると聞いている。

 --洋服以外への活用は

 実用化がほぼ完成しているのが、着物だ。スーツと違って色柄が体の部位ごとに異なり、帯もあるので開発には苦労した。和服の需要回帰に貢献できないか、期待している。浴衣や女子学生の卒業式用のはかま、かつらでの応用も研究中だ。

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 ■フジテレビ商品研究所

 「企業」「マスコミ」「消費者」をつなぐ専門家集団として1985年に誕生した「エフシージー総合研究所」内に設けられた研究機関。「美容・健康科学」「IPM(総合的有害生物管理)」「食品料理」「生活科学」の各研究室で暮らしに密着したテーマについて研究している。

 http://www.fcg-r.co.jp/lab/