【eco最前線を聞く】重油技術で船舶用LNGスタンド事業化

豊田通商の子会社による重油の国内でのバンカリングの様子
豊田通商の子会社による重油の国内でのバンカリングの様子【拡大】

 □豊田通商エネルギー貿易部事業推進グループリーダー・伊藤博隆氏

 豊田通商は5月、川崎汽船、中部電力、日本郵船と共同で、中部地区で船舶向け液化天然ガス(LNG)燃料供給(バンカリング)事業の新会社を設立したと発表した。バンカリングは、いわば海のスタンド事業で、桟橋などに係留中のLNG燃料船に船から燃料を供給するもの。国内の事業化は初めてで、2020年にも開始する。国際海事機関(IMO)による海の環境規制強化でLNGへの燃料転換が進むとみて、「重油供給で培ったノウハウを生かし地球環境にも貢献する」と豊田通商のエネルギー貿易部事業推進グループの伊藤博隆グループリーダーは意気込む。

 ◆規制強化で燃料転換進む

 --IMOの規制強化とは

 「昨年、決定されたもので、大気汚染防止に向け現在、欧州などで導入されている硫黄酸化物(SOx)排出規制を他の海域にも広げる。導入は20年からの予定だ。今後はさらに二酸化炭素(CO2)削減など順次、規制強化が進む見込みだ」

 --対応策は

 「方法は3つ。低硫黄燃料油の活用とスクラバーと呼ばれる巨大な排ガス浄化装置を甲板に設置してSOxの排出を削減する方法。このうち、低硫黄燃料油は割高で、スクラバーは今後、規制が強化されるであろう窒素酸化物(NOx)とCO2削減規制には対応できない。一方でLNGへの燃料転換はコストはかかるが、いずれの環境規制にも効果がある」

 --だからLNGへの燃料転換が進む

 「LNGは重油に比べて、SOxや粒子状物質(PM)の排出はゼロで、NOxは最大80%、CO2も約30%減らせる。欧米を中心に環境意識の高い、客船会社などの間でLNG燃料船を導入する動きが始まっている」

 --LNG燃料転換のスピードは

 「英ロイド船級協会の調査では30年に約11%がLNG転換すると予想している。世界のバンカリング総需要約2億4000万トンのうち、10%程度が重油からLNGに置き換われば、約2400万トン(原油換算)のLNG需要が生まれる計算だ。まずはLNGを供給するインフラの普及が急務といえる。日本を手始めに、今後はシンガポールや北米でのバンカリングの展開も視野に入れていきたい」

 ◆環境に適した解決策提供

 --豊田通商の強みは

 「当社は原油トレードからタンクターミナルも持ち、国内で小売りまでを手掛ける。重油バンカリングでは、世界の船舶用燃料(主に重油)約2億4000万トンのうち、約500万トンを販売し、世界で十数番目の規模で、大手商社でトップの実績だ。原油タンカーなどの通行量が多く、アジアの物流ハブであるシンガポールに重油バンカリング子会社、豊田通商ペトロリアムを持ち、許認可も取得し、サービス展開している。日本でもサービスし、上海、ロンドン、ニューヨークなどにも拠点がある」

 「国内外の船会社や船舶を持つ資源会社など500社に上る顧客は、いずれも規制強化で何らかの対応を迫られており、顧客ニーズに対応し、環境に適合した解決策を提供する使命がある」

 --新会社のサービスは

 「今後、LNG供給船を発注し、建造することになる。中部電力の川越火力発電所(三重県川越町)に隣接するLNG基地を拠点に供給船にLNGを積み込み、伊勢湾に停泊する船舶向けに供給サービスを開始する。波がおきる中でのホースのつなぎこみなど重油で培ったノウハウを生かせる」

 --世界の動向は

 「規制が先行する欧州では、日本の商社や仏エネルギー会社のエンジなどがサービスを開始している。英蘭ガス大手のロイヤル・ダッチ・シェルも自動車運搬船向けにオランダのロッテルダムでサービスを計画する。重油供給の一大拠点のシンガポールも国として対応を急ぐが、LNG輸入大国の日本は既存LNG輸入基地などを活用できる利点がある」(上原すみ子)

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【プロフィル】伊藤博隆

 いとう・ひろたか 東京外大卒(インドネシア語専攻)、1995年トーメン(現豊田通商)入社、プラントプロジェクト部門でミャンマーとインドネシアに駐在し、インフラプロジェクトに従事。2007年からエネルギー関連ビジネスに関わる。昨年4月から現職。長崎県出身。45歳。