あくまでビジネス ダウン症の店員が運営するカフェが大成功したワケ (3/3ページ)

 少し時間がかかって運ばれてきたそれは、なんとこだわりの焼き立てで、オランダでは珍しいチョコレートの濃厚さと香ばしさで蒸せ返りそうになるような豊かな風味の本格ブラウニーだった。

 そして会計時のレジの店員は、36ユーロのお釣りをお札と硬貨でどう構成したらいいか分からず同僚にヘルプを求めていたが、筆者がオランダ語のつたない外国人であることをいつの間にか察して、初めから流暢な英語と親切な笑顔で対応してくれた。近年、移民同化政策が厳しさを増し、こちらから英語で話しかけるとちょっとした苛立ちが返ってくることの多いオランダにおいて、なんとも受け入れられた感覚を持って店を後にした。

 「特別な」店員は、「特別な」客にもシンパシーを持って分け隔てなく接客してくれるのかもしれない。でも、何もかも「特別」でない人なんてどこにいるだろう?

 冒頭でふれた「注文をまちがえる料理店」の小国氏は、「注文と違う料理が来たけど、これもおいしいからいいか」と思ってもらえるよう、最高においしいメニューを揃えるのに苦労したという。

 「ブラウニーズ・アンド・ダウニーズ」もまた、おそらく料理へのこだわりが基礎としてあり(オランダ国内であまりメジャーでなかったブラウニーに着目したのもラッキーだったと言えるかもしれない)、その上に「特別な」店員からのフレンドリーできめ細やかなサービスや、彼らを育て活用するカフェのおおらかな雰囲気、そして筆者が疑っていた社会貢献としての充実感などの付加価値が上乗せされて、このカフェを特別なものにしているのだろうという印象を受けた。

 ◆創業者の「次なる目標」

 スウィンケルズ氏は今年、国内のビジネスカレッジにおけるスピーチで「発達障害を持つ人も学べる職業訓練校を創設できないか模索中だ」と現在の目標を語り、「最も教育を必要とする人たちが、最も早く教育を終えてしまうのはおかしい」と、通常18歳で終了となるオランダの特別支援教育に苦言を呈した。

 「うちの店でダウン症の店員がコーヒーを運んでくるくらいなら文句は出ない。しかし例えば、ダウン症を持つセールスマンが車の説明をしに来たら? 今の世の中では受け入れてもらえないだろう。彼は実際、あなたや私よりも車の知識は豊富かもしれないのに。私が変えたいのはそういった人々のマインドセットだ」と語る30代の経営者の目は、限りなくインクルーシブな未来を見据えている。(ステレンフェルト幸子/5時から作家塾(R))

 《5時から作家塾(R)》 1999年1月、著者デビュー志願者を支援することを目的に、書籍プロデューサー、ライター、ISEZE_BOOKへの書評寄稿者などから成るグループとして発足。その後、現在の代表である吉田克己の独立・起業に伴い、2002年4月にNPO法人化。現在は、Webサイトのコーナー企画、コンテンツ提供、原稿執筆など、編集ディレクター&ライター集団として活動中。

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