【高論卓説】無人レジの米ベンチャーが日本進出 低導入コスト売りにシェア1位狙う

 無人レジの米ベンチャー企業、スタンダードコグニション(SC、カリフォルニア州)が日本に上陸、日本最大の日販品卸のパルタックと提携して本格的に動き出した。米国ではインターネット大手のアマゾン・コムが無人店舗「アマゾンゴー」を2016年12月に発表し話題となったが、SCはそのライバルとして注目されている企業だ。

 日本では既にGUやイオン、JR東日本などが独自で「無人レジ」の開発導入を進めているほか、経済産業省がサプライチェーン(供給網)の透明化を目指して進めるICタグを活用した「無人レジ」の開発にローソンが力を入れている。「ICタグは国家的プロジェクト。ICタグが普及すれば、これを使った無人レジはデファクトスタンダードになることは間違いない」(ローソン幹部)。

 しかしICタグをつけるとコスト高となる。低価格の商品に付けることは難しい。まだ数年はかかるとみられ、「実用化の目標は2025年にしている」(経産省関係者)という。そんな間隙(かんげき)をぬって日本進出を表明したのがSCだ。来日した最高執行責任者(COO)のマイケル・サスワル氏は「20年の東京五輪までには3000店に導入したい」と語っている。

 SCが設立されたのは17年2月。最高経営責任者(CEO)のジョーダン・フィッシャー氏とサスワル氏の2人、それに5人の仲間たちが作った創業間もないベンチャー企業だ。10年以上前から7人は勉強会を開き、新しいビジネスを模索。たどり着いたのが「無人レジ」だった。

 「私たちが無人レジの開発を始めたのはアマゾンゴーが発表される1週間前。最初は『やられた』という思いでしたが2、3日後には『これはチャンスかもしれない』と思い直して急ピッチで開発を進めました」(サスワルCOO)

 SCの無人レジシステムは天井設置のカメラのみで買い物客と商品の動きを認識。人工知能(AI)によるディープラーニング(深層学習)を活用して客が手にしている買い物かごに何が入っているかをリアルタイムで把握し、自動で決済できる。決済方法はスマートフォンアプリやクレジットカード、現金決済にも対応する。

 スマホアプリ決済なら行列に並んだり、商品をスキャンしたりする必要もないから、買い物客は商品を手にしたらそのまま店舗を出るだけで済むという。「天井にカメラを設置するだけで棚にセンサーを設置する必要もなく、他の無人レジのシステムよりも安いコストで導入することができます」(サスワルCOO)。

 こうした低コストと利便性の高さに注目したのがパルタックだ。パルタックは売上高9666億円、小売業だけで800社との取引があり、中でもドラッグストアに強い卸として知られている。SCとの提携でもドラッグストアに対するシステムの導入は独占契約になっているという。SCは9月にはサンフランシスコ市内に直営店第1号の「スタンダード・マーケット」(店舗面積約186平方メートル)をオープンしコンビニエンスストア規模での実証実験をスタート。パルタックの紹介で、19年中旬までには薬王堂(岩手県、239店舗)の仙台泉館店(店舗面積約990平方メートル)で郊外型大型店舗の実証実験を行うという。

 「業界シェアトップを狙う」と語るサスワル氏。創業1年の黒船ベンチャー企業がどこまで成果を上げることができるのか、注目したい。

                   

【プロフィル】松崎隆司

 まつざき・たかし 経済ジャーナリスト。中大法卒。経済専門誌の記者、編集長などを経てフリーに。日本ペンクラブ会員。著書は多数。昨夏に『東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人』を出版。埼玉県出身。