インタビュー

経団連・中西宏明会長 デジタル革新で世界成長を牽引

 日本経済は緩やかな景気回復が続くが、深刻な人手不足が成長の足を引っ張ると心配されている。米中貿易摩擦は出口が見えず、企業の不祥事も相次いでいる。シニアの主戦力としての活用や外国人労働者の雇用、景気の先行きなどについて、経済3団体のトップに聞いた。(大塚昌吾)

 --「平成」が終わる年に経団連が果たす役割は

 「デジタル化の波が日本経済を後押しし、成長の力になるよう、(デジタル革新によって明治維新のような変革を目指す)『ソサエティー5.0』を本格展開する。デジタル化の動きは急だが、経済全体が受け止めるには構造改革に時間もかかるし、エネルギーもいる。その先頭を走っていきたい。(メルカリやアマゾンジャパンが経団連の会員になったが)デジタル化を進めていくパワーは、従来型産業よりも新しく入った企業の方が強い。経済界としてどう推進し、関連する政策を政府とどう作り上げていくか、ソサエティー5.0の具体化を議論する仕掛けづくりをしたい」

 --平成の30年の振り返りと今後の10年は

 「バブル経済が崩壊し、新たなグローバル化の大きな矛盾点にぶつかった空白の20年、30年。それまでの高度成長シナリオを変え切れず、ほとんど成長できなかった。安倍晋三政権で経済環境が改善し、低成長から抜け出す先が見えたところで平成が終わる。今後は人口減少という深刻な時代に入るが、逆に安定成長の軌道に乗せていく大きなチャンスでもある」

 --外国人雇用は人手不足解消につながるか

 「言葉の壁もあるし、働く環境を急速に整える必要があるが、いろいろな人が来て経験を積める社会になるのは素晴らしい。ただ、人手不足対策は主眼ではなく、グローバル化、デジタル化が進む変化の激しい時代に、多様性のある人材を得ることが経済界にとってプラスになる」

 --今年の経済は

 「米中摩擦が関税にとどまらず、中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)の排除にみられる米中の技術覇権の問題になると、グローバル経済のブロック化が発生し、数カ月で経済情勢はがらりと変わる。どういう形の経済になるか眺めるだけでなく、日本が持っている強みをどう発揮するかが大切だ」

 --日本で20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)が開かれる

 「ホスト国である日本への期待の大きい重要なサミット。デジタル革新で、日本がリーダーとしての役目を果たせるいい機会。欧州、中国、アメリカという大きな文化圏で相反するデータ利用に関し、日本がルール化で主導権を発揮できるステップになる」

 --会長就任から7カ月たった

 「力を入れていたソサエティー5.0を昨年11月に発表し、いい提言を世の中に伝えることができた。就職・活動ルールの見直しも、定例会見で経団連指針の廃止を表明し、反響があった。中身の議論はこれからだが、働き方改革や新卒一括採用、終身雇用の見直しもまさに、ソサエティー5.0に全部結び付いて、私は一つのイメージで話をしている。シニアの活用も一緒で、やりたい人、やりたくない人がいるわけで、定年延長もさまざまな選択肢を提示していけばいい」

 --春闘交渉が本番を迎える

 「各社とも企業業績が良く、いろんな形で賃上げすると思うが、底流にあるのは生産性の問題。大きな経済の動きに対応する形で、働き方改革を進めないと。生産性というのは、単に時間帯当たりどれだけ生産するかでなく、いかに新しい価値を増大させ、その上で企業活動を展開するかだ」

 --東京電力福島第1原発事故から9年目を迎える

 「国内のエネルギーの8割は依然、化石燃料で危機的状況にある。再生エネルギーも、日本には適地が少なく極めて不安定。太陽光も風力も季節性があり、次世代送電網のスマートグリッドも、新しい投資が行われていない。一方で、稼働しない原発に巨額の安全対策費が注ぎ込まれているが、8年も製品を造っていない工場に存続のための追加対策を取るという、経営者として考えられないことを電力会社はやっている。適切な安全対策を最初から折り込んだ原発は、発電コストも高くないが、国民が反対するものをつくるには、原発建設の受け入れを前提に、公開討論すべきだ」

【プロフィル】中西宏明

 なかにし・ひろあき 東大工卒、米スタンフォード大大学院修了。1970年日立製作所入社。社長、会長兼CEOを経て2016年から会長。18年5月から経団連会長。72歳。神奈川県出身。

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