インタビュー

日本商工会議所・三村明夫会頭 中小の人材確保にあらゆる措置

 --2期6年目の最終年を迎えた。振り返ると

 「一番大きかったのは、(訪日外国人を呼び込む)観光インバウンド。中小企業、地方を救う有力なプロジェクトと認識し、515の全商工会議所に観光担当者を置いて、一地域ではなくネットワークを活用した観光をアピールした。訪日外国人は昨年12月で3000万人を突破し、本当かなと思われた4000万人も現実性を増してきた。もう一つは人手不足への対応。中小企業だけでなく、潜在成長率にも影響を与える日本全体の構造的な課題で、解決に向けて各方面にアピールしている」

 --具体的にどう取り組む

 「日本商工会議所の調査(2018年)では、中小企業の65%で人員が『不足している』と回答、数年後の見通しでも半数以上が『不足感が増す』としており、先行きも深刻だ。中小企業はサプライチェーン(原料、製品、サービスの供給網)の一環を担っているし、大企業の下請けでもあるので、人手不足は大企業にも押し寄せ、日本経済全体に及んでくる。シニア、女性、外国人労働者、デジタル技術の活用と、ありとあらゆる措置を講じないといけない」

 --外国人労働者の活用には慎重論もある

 「6000万人台の労働力人口に対し、外国人は現在128万人、政府試算だと5年間で最大34.5万人の受け入れで、日本人の雇用を奪う設計はしていない。外食、介護などでは、外国人なしでは業務が成り立たないレベルになっている。そもそも、米、独、韓国、タイ、中国など人手不足で悩んでいる国はたくさんあり、日本が望めば大喜びで来てくれるというのは大間違い。賃金面での待遇と、日本語や日本文化を学べる環境を社会全体で準備していく必要がある」

 --シニアの雇用で給与体系の見直しは

 「健康寿命が70代まで上がり、働きたい、社会貢献したいと考えるシニアはたくさんいて、雇いたいという需要もある。一律の定年延長ではなく体力、気力、生活スタイルに合わせた柔軟な働き方を整備し、仕事が同じだったら(現役世代と)処遇を同じにするのは当然。大企業を退職した人を中小企業にマッチングする制度があってもいい」

 --品質不正や経営トップ逮捕など企業の不祥事が続いている

 「日本の製造業は膨大な機械化、システム化投資をしてきて成果が上がっていないわけはなく、規格に合わない製品を出荷する確率が小さくなっているのは間違いない。(不正の相次ぐ公表は)背景にコンプライアンス(法令順守)や厳正な基準の定着があるが、徹底して防止策を講じるべきだ」

 「経営に関しては、与えられた資源を最大限使って業績を向上させ、会社の将来の可能性をできるだけ広げるのが優れた経営者。資本主義の父である東京商工会議所初代会頭の渋沢栄一氏は、利益を上げるのは当たり前、社会にも貢献しなければいけないと言っている。私欲でなく、会社のため、社会のためにやるということだ」

 --景気認識は

 「中国、欧州の景気は減速しているが、米国は世界経済に対して鈍感。トランプ大統領の減税効果が剥げ落ちたとしても、公約の一つであるインフラ投資をまだやっていないし、リスクもあるが当面の成長は維持される。日本も輸出比率が低いし、企業の収益率も良く、当面は緩やかな景気回復が続くだろう。ただ、大手企業のボーナスが過去最高になるなど賃金が増えても、国内総生産(GDP)の60%を占める消費が出てこない。消費税は払うものだという意識で、価格転嫁をスムーズにやることが大切だ」

 --米中貿易摩擦の行方をどうみる

 「90日交渉の一時休戦中にあるが、米中の貿易戦争は、2国間の覇権争い。トランプ大統領個人だけでなく、野党の民主党も含めた多くの人が中国に不信感を持っていれば、簡単な妥協は見込めず、長引くと考えざるを得ない。その前提で、日本は米国抜きで環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)11の成立を主導したように、欧州などと連携して対応していかなければならないだろう」

【プロフィル】三村明夫

 みむら・あきお 東大経卒。1963年富士製鉄(現新日鉄住金)入社。新日本製鉄(同)社長、会長、新日鉄住金相談役名誉会長を経て2018年から名誉会長。13年11月から日本商工会議所会頭。78歳。群馬県出身。

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