ポリマーの未来をクルマで表現。コンセプトカー「ItoP(アイトップ)」のユニークな成り立ち (3/4ページ)

 【ボディ、足回り、タイヤまでが「しなやかタフポリマー」】

 これらの車体骨格のほとんどがCFRP(カーボンファイバー強化プラスチック。実態としては力を受けるカーボンファイバーを合成樹脂で接合した複合材)のスキン(内外皮)でアルミ合金やアラミド繊維布のハニカム材をサンドイッチした、レーシングマシンではお馴染みの素材で作られている。そのマトリクス材(炭素繊維糸を接合する樹脂)には、もちろん「しなやかタフポリマー」の中で東レが東京工業大学、東京大学などと協力して開発している高剛性・高靱性の新しいエポシキ系樹脂も使われている。シート構造部材(シェル)などがその一例。

 いっぽう、フロントエンドからルーフにつながる1枚もののウィンドウスクリーン、左右ドアのほぼ全面を占めるウィンドウの透明パネルも、これまでならばたわみに強いポリカーボネート(PC)か、剛性が高いが割れやすいアクリルか、というところを、このプログラムではアクリル系透明樹脂に高い靱性(たわみ耐性)を持たせた新素材の開発を住友化学が中心になって進めている。

 【ふたつのグリップを押し引きするユニークな操舵系】

 新しいマトリクス樹脂を使ったものも含めて、このクルマにはCFRPで作られた重要な機能部品が各所に組み込まれている。まずフロント・サスペンションはダブル・ウィッシュボーンだが、主ばねをタフポリマー導入CFRPの横置きリーフスプリングにして、その外端側をアッパーアームに使っている。ロワーAアームもCFRP一体形成品で内端側を伸ばしたロッカーアーム部分でダンパーを伸縮させるレイアウトだ。

 ボディから独立した形でスリムなフェンダーに包まれている前輪を動かすステアリング・メカニズムは、ユニークな構成。左右の手で握る縦型のグリップからそれぞれ前に伸びるロッドがリンクを介してタイロッド~アップライトへとつながり、ドライバーは左右のグリップを常に逆方向へ押し引きすることで操舵する。この仕組みはもうずいぶん前にクルマの操縦性と人間工学を結びつけたある自動車エンジニアが発想したもの。人間がクルマを操ることの最適化を追求してF1の開発にまで携わった人物であって、このクルマの発表時に久しぶりにお目にかかった。ここでもモータースポーツ系人脈がつながっている。

 リア・サスペンションもダブル・ウィッシュボーンで、こちらの主ばねはCFRPで作ったコイルスプリング。コイル部分の線材はねじられつつ伸縮変形するので、リーフスプリング以上にマトリクス樹脂に求められる機械的特性はシビアになる。そして上下のAアーム、トー方向の固定用ロッドの3種のリンクに加えて、アップライトも構造体部分はCFRP成形品。ベアリング、ボールジョイント類やボルト類は金属製で、それらとの締結部には金属インサートが組み込まれた構造となっている。このあたりの異種素材の接合はTCMとしては“お手のもの”ではある。

タイヤにも革新的な骨格材を採用

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