【関西企業のDNA】関西発祥の代表的な総合商社、伊藤忠商事と丸紅はともに平成30年で創業から160年を迎えた。両社のルーツをたどると、創業者の初代伊藤忠兵衛(1842~1903年)と二代忠兵衛(1886~1973年)の近江商人としての理念や、進取の気風に行き着く。(栗川喜典)
理念伝える“聖地”
滋賀県東部のJR彦根駅から近江鉄道に乗り換え、約13分で豊郷(とよさと)町の豊郷駅へ。徒歩約5分の旧中山道(なかせんどう)沿いにある2階建て古民家が初代忠兵衛の旧邸で、二代忠兵衛の生家だ。明治15年築の建物は初代の百回忌を機に整備され、平成14年から「伊藤忠兵衛記念館」として公開されている。
「平成29年は5295人が訪れ、うち1064人が伊藤忠と丸紅の関係者だった」と、同館を管理する公益財団法人「豊郷済美会」の桂田繁常務理事。両社グループの役員や社員らが訪れ、創業理念に触れる“聖地”となっている。
約1800平方メートルの敷地に建つ延べ約700平方メートルの同館は玄関を入って左手が女中部屋で、右手に店の間、中の間、仏間などがある。奥には離れや土蔵などが続き、展示されている数々の調度品や伊藤家に関する資料、愛用品などとともに往時をしのばせる。
先見性と人間味と
江戸期の天保13年、旧豊郷村の繊維品小売業「紅長(べんちょう)」の五代伊藤長兵衛の次男に生まれた忠兵衛は安政5(1858)年、15歳で近江麻布の持ち下り商い(行商)を始めた。この年を伊藤忠と丸紅は創業年としている。
大阪や和歌山だけでなく九州へも出向いた忠兵衛は貿易でにぎわう長崎に刺激を受け、大阪・船場に繊維問屋「紅忠(べんちゅう)」を開業。ここから、今のビジネスにも通じる先見性を発揮した。