【道標】巨額の仮想通貨流出から1年 信頼回復は道半ば 法制の整備急務


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 仮想通貨交換業者コインチェック(東京)から約580億円相当の仮想通貨「NEM(ネム)」が不正アクセスにより流出したことが発覚して、1年が経過した。この間、金融庁は同社に対して2度にわたり業務改善命令を出し、立ち入り検査を行って指導してきた。巨額の流出で失墜した信頼は、いまだ回復の途上にある。

 コインチェックは流出の発覚当時、改正資金決済法に基づく登録業者に申請中の「みなし業者」だった。昨年4月にインターネット証券大手マネックスグループの完全子会社となった。金融庁は今年1月11日にセキュリティー対策など利用者保護の体制が整ったと判断し、同法に基づく登録業者にした。登録業者は現在17社だ。

 仮想通貨交換業者の登録制度は、2017年4月の同法施行によってスタートした。だが、コインチェック以外にも流出事案が発生するなど多くの問題が顕在化している。

 例えば、同社以外の業者の内部管理態勢も金融庁の立ち入り検査で多くの不備が指摘された。こうした状況に多数の業者が陥ったのは、リスク管理に不慣れなまま事業に参入したことに加え、17年後半に仮想通貨の価格が大幅に上昇し、事業規模を急拡大させたことがある。

 価格上昇の背景には、ICOと呼ばれる仮想通貨を活用した資金調達手段が世界的に広がったこともある。半面、資金調達の8割が詐欺的な実態のない企業によるもの、と指摘されている。

 仮想通貨はその後、価格が乱高下を繰り返し、代表的なビットコインの価格は大幅に下がった。当初考えられていたような決済、交換手段ではなく、もっぱら投機の対象になっている。なかには取引の履歴が追えず、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金の供与につながりかねない問題のある仮想通貨も増えてきている。

 こうした中で、取引の健全化に向けたさまざまな動きが本格化している。第1は、コインチェックをはじめとした交換業者各社の内部態勢整備の動きである。

 第2は、18年10月に交換業者の業界団体が金融庁により自主規制団体として認定されたことだ。厳しい自主規制ルールが策定され、会員である業者を自主的に監督する態勢が整備されつつある。

 第3は、利用者保護のための法制整備に向けた動きである。金融庁は昨年12月、交換業に関する研究会の報告書を発表した。

 その柱は(1)交換業者に対する利用者保護の仕組みや適正な業務遂行を制度上義務付け、問題のある仮想通貨の取り扱いを禁じる(2)ICOに関連して、仮想通貨で出資を募る行為が規制対象となることを明確化(3)仮想通貨の呼称を暗号資産に変更する-などだ。

 仮想通貨に対する信頼の回復は、まだ道半ばである。価格は下落傾向にある一方、登録に関心を持つ業者は現在約180社あるとのことだ。仮想通貨ビジネスの将来や金融関連の技術革新への期待が衰えているわけでもない。

 信頼回復のためには、自主規制ルールと連携した法制の整備などが実現するとともに、個々の業者による健全で透明な取引実現のための不断の取り組みが必要である。

【プロフィル】翁百合

 おきな・ゆり 日本総合研究所理事長。東京生まれ。京都大博士(経済学)。日本銀行を経て、日本総合研究所に入り、2018年から現職。専門は金融システム、社会保障など。『不安定化する国際金融システム』をはじめ多くの著書がある。