がんの予備知識がない人に向け、がん患者が治療や仕事、子育てなどの体験を発信する活動が増えてきた。患者の生存率が上がり、治療しながら働く人も多いのに、医療以外の実情に関する情報が圧倒的に不足しているとの問題意識からだ。オープンな語りは、等身大の患者像を社会に広げるのに役立つとして、がん専門医もエールを送る。
ネット配信やSNSで
25歳と27歳で「胚細胞腫瘍」という珍しいがんになった岸田徹さん(31)は、がん経験者へのインタビューをインターネットで配信する「がんノート」という活動を2014年から続けている。「治療の専門的な情報は医療者が持っているが、それ以外の情報は患者が一番詳しい」と痛感した岸田さんが聞き手となり、抗がん剤の副作用や仕事と治療の両立、人間関係など幅広いテーマの患者の語りを生中継する。昨年12月には第100回を記念し、17年にがんを経験した兄の剛さん(38)をゲストに迎えた。
現在闘病中の患者に役立ててもらおうと始めた活動だが「級友や同僚の闘病を初めて想像できた」など当事者以外からの感想が増えた。「がんになった友人との接し方を教えて」「家族や遺族の話を聞きたい」といった要望も寄せられるようになり、岸田さんは「患者以外のニーズにどう応えていくかが課題になってきた」と話す。
日本社会は、働きたいがん患者を受け入れる職場環境になっているか-。国立がん研究センターと日経BP社などの共同プロジェクトが昨年ネットで実施した意識調査で「そう思う」と答えたのは3割に満たなかった。
生涯にがんになる人は2人に1人といわれる日本で、がん患者の5年生存率は6割を超え、働く世代の患者は25万人以上(数字は国立がん研究センターなどによる)。しかしサポート体制や理解は不十分だ。
子供を持つがん患者の会「キャンサーペアレンツ」を16年に立ち上げた西口洋平さん(39)も、言い出しにくい雰囲気を常に感じている。
35歳の時、進行した胆管がんと診断され「死ぬのは怖い」と苦悩した。職場にどう伝えるか、まだ6歳の娘に何と説明すべきなのか、当時は自分で答えを出せなかった。