論風

“背中合わせ家族”時代の消費 実店舗の強み生かし復権を

 スマートフォンの普及は、人々の生活にさまざまな影響を及ぼしているが、中でも生活者のインターネット利用時間は大きく増加した。野村総合研究所(NRI)が2018年7月から8月にかけて実施した「生活者1万人アンケート調査」によれば、1日のうちに仕事以外でネットを利用している時間は、10代が230分、20代が227分、30代が145分、40代が111分となっている。2009年の調査結果との対比でみると、10代は2.5倍増、20代は2.7倍増、30代は2.4倍増、40代でも2.2倍増となっている。(野村総合研究所社長・此本臣吾)

 230分といえばほぼ4時間であるから、10代や20代の若者は学校や職場で過ごす時間と睡眠時間を除いて、ネットを見続けているような生活である。ではネットで何をしているかといえば、「無料動画の視聴」「SNSでの友人とのやり取り」「位置情報(地図)の利用」「他人のSNSの閲覧」の順に利用頻度が高い。とりわけ、最近では動画の視聴時間が伸びている。

 お茶の間が消失

 それと反比例するように、テレビの視聴時間は若年層を中心に減少が続いている。同調査では、平日1日のテレビの平均視聴時間を尋ねているが、10代では09年の140分から18年には104分と3割弱も減っている。20代より上の世代でも、テレビ離れは着実に進んでいる。

 10代から40代、50代までの家族がリビングに一堂に集まっていても、テレビ番組がバックで流れているかもしれないが、家族はそれぞれのスマホに見入っていて、動画を視聴したり友人とチャットをしたりと自分の世界に入っている。

 家族が時間や空間を共有する「お茶の間」は消失しており、リビングにいてもお互いに言葉も交わさない「背中合わせ」の状態になっている家庭が多いのではないか。

 増加する“こだわり消費”

 スマホの普及でネット上のコミュニティー空間で過ごす時間が長くなり、同じ嗜好(しこう)性の人々と濃厚な情報交換を重ねると、関心事への「こだわり」がどんどん強まっていく。気がつくと趣味の高価なレア物をネット通販でひそかに購入していることもある。NRIの調査では、10代と20代のネットショッピングの年間利用回数は40~50回であり、ほぼ毎週何かをネット経由で買っている計算になる。50代、60代でも年間利用回数は30回を上回っている。ネット通販の利用が日常化してくるにつれて、マス媒体からの情報収集の意味は薄れていく。商品やサービスを購入する際の情報源については、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の広告を重視する割合が年々下がり続けており、逆にネット上の情報、評価サイトやブログでの評判を重視する割合は増加している。ネット通販がこだわり消費を強めている。

 売り場で「体験」提供

 ただし、消費者が何から何までネット経由かというとそうではない。情報収集のために消費者は実際に店舗に足を運んでおり、リアル店舗が素通りされているわけではない。買回り品では、ショッピングモール、大型専門店、総合ディスカウントストアの利用回数は増えており、百貨店や家電量販店の利用回数も減ることはなく安定している。

 ネット通販にリアル店舗が押されているのは間違いないが、リアル店舗にも売り場での接客や「体験」の提供があり、特徴ある商品の品ぞろえ次第で復活の可能性は十分にある。ネットはビジネスモデルの寿命が短い上に模倣されるリスクも高いが、競争力のあるリアル店舗はそう簡単にまねできるものではない。こだわり消費を刺激するエンターテインメント性など、リアル店舗ならではの顧客誘引要素があれば消費者の購買機会は増やせるはずだ。

【プロフィル】此本臣吾

 このもと・しんご 東大大学院修士修了。1985年野村総合研究所入社。専門分野はグローバル製造業の競争戦略。台北支店長、コンサルティング事業本部長などを経て2016年から現職。59歳。東京都出身。

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