経済インサイド

老後「2000万円」は“禁句”の金融業界、予期せぬ恩恵に複雑な表情 (2/2ページ)

 「2千万円」に刺激される形で、個人の動きも活発化している。社会人向けに金融経済教育を行うファイナンシャルアカデミー(東京都千代田区)が6月17日に「老後に2千万円は本当に必要か」をテーマに開いたセミナーには、当初予定の36人を大幅に超える144人が参加した。セミナーでは、報告書に対する受け止めとして、多くの人が「不安」や「疑問」を訴えた。参加した40代の女性は「前から資産形成の重要性は分かっていたが、本格的に始める気になった」と感想を述べた。

 インターネット専業証券では、個人投資家の動きが活発化している。楽天証券によると、個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」と「少額投資非課税制度(NISA)」の申込件数は報告書発表後に約2倍に増えた。6月25日に開催したオンラインセミナーは昨年実施した同様のセミナーと比べ3~4割多くの人が視聴し、「初心者の比率も多かった」(同社広報担当者)という。

 ある資産運用会社では、商品開発や販売部門を中心とした全社員に向けて報告書を“必読本”に位置づけている。その狙いについて、役員の一人は「高齢社会の実態を理解する上で非常に重要な報告書だ」と説明する。

 これまで政府や金融業界がいくら「貯蓄から資産形成へ」とキャンペーンを行っても、投資や運用への理解はなかなか深まらなかった。2千万円をめぐる騒動は金融審による当初の想定とは違った経路とはいえ、国民の関心を資産形成へと向かわせるきっかけとなったことは金融業界にとって追い風となった。(米沢文)

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