高論卓説

文章を読めない社員が会社を潰す メディアにも問われる「読み解く力」

 今、小学校の教育現場において「読解力を鍛える」ことが重要なテーマになっている。教科書の文章や図表をきちんと理解できているかどうか、かなり怪しいことが分かっているためだ。

 丸暗記をするような受験対策の教育に異議を唱え、読解力を身につける教育こそが重要と主張しているのが、国立情報学研究所の新井紀子教授だ。30万部を超えるベストセラー『AI vs. 教科書を読めない子どもたち』の著者である同教授は「プリント学習によって言葉だけを丸暗記するようなことになっていないか。必要なのは、あらゆる教科に共通する基盤である読解力。キーワードを拾い読みするような『AI(人工知能)読み』をしていては、それこそAIには勝てない」と警鐘を鳴らす。

 新井教授が問題視するのは、子供の読解力だけではない。新井教授が開発を主導した「リーディングスキル(読解力)テスト」を多くの大企業で実施したところ、正答率が中学生の平均並みという社員がいるのだという。ところが、こうした社員は、自分は文章を読めないとの自覚はない。組織の中に「文章を読めない人」がいることで、さまざまな問題が起きてしまう。

 「コンプライアンス(法令順守)について、守る社員と破る社員がいるのは、『いいかげん』『まじめ』など性格の差に起因する問題と思われていたが、実はコンプライアンス研修を受けたときにその資料が読めるかどうかの差のほうが大きい」と言う。「文章を読めない社員や経営者が会社を潰すことだってある」

 経営者も危機感を持っている。今年の7月、軽井沢で行われた日本経団連の夏季フォーラムにゲスト講師として呼ばれた新井教授に対して、多くの質問が出て予定の時間を大幅に超過したという。

 読解力不足が企業を潰しかねない-。何とも深刻な話なのだが、解決策はある。新井教授が提案するのが「教科書をしっかり読む学習をすること」。塾での受験対策、プリント学習を行うのではなく、じっくりと教科書を読み解く学習をすべきだという。「東大、京大といえども教科書に書かれていないことは入試には出ない。この基本に回帰すれば、全国の名門公立高校が東大合格者数で復権し、そのことが地方創生にもつながるはずだ」とも訴える。

 実は、「教科書を読む」ことは社会人にとっても重要だ。例えばビットコインについて知りたい場合には、誰かが書いた平易な解説書を読むのではなく、まずは発明者であるサトシ・ナカモトの論文の原典を読むべきなのである。公的年金制度について知りたければ厚生労働省が用意している資料を読み込むべきだし、相続について知りたければ民法の当該箇所を読み込むべきなのだろう。

 この課題は、メディアにも突き付けられているように思う。企画を作る際に安易に他のメディアや書籍などから孫引きしていないか、安易に評論家の意見に依拠していないか、分かったふりをしていないか。労を惜しんではならない。「原典」にしっかり当たっていくべきだと、肝に銘じていきたい。

【プロフィル】山田俊浩

 やまだ・としひろ 早大政経卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。週刊東洋経済の編集者、IT・ネット関連の記者を経てニュース編集長、東洋経済オンライン編集長を歴任。2019年1月から週刊東洋経済編集長。著書に『孫正義の将来』(東洋経済新報社)。

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus