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触媒反応におけるデータ駆動型分子設計に成功 関節リウマチの2つの自己抗体価に対する喫煙の影響

 理化学研究所 環境資源科学研究センター 触媒・融合研究グループ 基礎科学特別研究員・山口滋

 触媒反応におけるデータ駆動型分子設計に成功

 鍵反応中間体上に、データ解析により抽出した重要構造情報を可視化した。青色が反応中間体と重なっている、水色が反応中間体と重なっていない重要構造情報。反応中間体と重なっていない重要構造情報と重なるように中間体の構造を設計すると、不斉収率が向上するものと期待される。反応中間体は基質と触媒の構造をどちらも含むため、重要構造情報をもとに触媒分子、基質分子どちらも設計可能である。可視化した重要構造情報をもとに触媒および基質の設計を行った。設計した基質を用いて実際に反応を行ったところ、生成物の不斉収率は、解析に使ったデータの最大値81% eeを超える94% eeであった。

 人工知能・データ科学は現在、研究者の試行錯誤により行われている触媒反応開発を自動化・高速化すると期待されている。しかし、データ科学的手法を用いた場合、精度の高い予測ができるのは、解析に用いたデータの範囲内に限られる。したがって、手持ちのデータを超える機能を示す分子のデータ駆動による予測・設計は簡単ではない。

 医薬品などファインケミカルの合成には、有機合成の「不斉触媒反応(触媒を用いて光学活性な分子を作り出す反応)」の開発が不可欠であり、不斉収率(不斉触媒反応で生成する鏡像異性体の比率)が向上する基質分子や触媒分子の設計を行うことが重要である。

 今回、理研の研究チームは不斉触媒反応において、不斉収率が決まる段階の反応中間体の構造を用いて、分子場解析と呼ばれるデータ解析を行うと、不斉収率が向上する分子設計を可能にする構造情報を抽出・可視化できることを発見した。そして、可視化した構造情報をもとに基質および触媒分子の設計を行い、基質に関して不斉収率が81% ee(Enantiomeric Excess:鏡像体過剰率)から94% eeに向上することを実験的に確認した。

 本研究成果により、触媒反応開発の効率化に向けたデータ駆動科学に関する研究が加速すると期待できる。

                   

【プロフィル】山口滋

 やまぐち・しげる 2011年京都大学大学院理学研究科博士課程修了、博士(理学)。東京大学大学院理学系研究科、カリフォルニア大学サンディエゴ校、京都大学化学研究所バイオインフォマティクスセンターなどを経て17年から現職。

 コメント=データ科学を活用してワクワクする有機合成化学研究を展開したい。

                   

 理化学研究所 生命医科学研究センター ゲノム解析応用研究チーム 客員研究員・石川優樹

 関節リウマチの2つの自己抗体価に対する喫煙の影響

 自己免疫疾患の一つである関節リウマチの患者には、自己抗体として主に「抗CCP抗体(ACPA)」と「リウマチ因子(RF)」の2つが臨床現場で日常的に測定されている。これらの自己抗体は、関節リウマチの診断のみならず、疾患経過を予測する因子としても重要である。

 今回、理研を中心とした共同研究グループは、関節リウマチ患者6,239人の発症時における喫煙状況とACPA、RFとの関連を、患者の遺伝的背景を含めて解析した。その結果、関節リウマチ発症時の喫煙は、発症後のACPA・RF高値と強く関連しており、特にRFの影響がACPAよりも強く認められた。また、関節リウマチの遺伝的リスクと考えられているシェアドエピトープ(SE)と呼ばれる共通のアミノ酸配列をコードするHLA-DRB1遺伝子型を持つ患者では、喫煙によるACPA高値への影響が認められたが、SEを持たない患者では認められなかった。一方、喫煙によるRF高値への影響は、SEの有無に関わらず認められた。これらの結果は、関節リウマチにおいてしばしば共存するACPAとRFの産生メカニズムが根本的に異なることを示している。さらに、喫煙のACPA・RF高値への影響は、発症前の禁煙期間により徐々に消失していくことも分かった。

 本研究成果は、いまだ不明な点が多いRAの病態解明や発症予防に向けた、基礎医学や臨床医学研究に貢献すると期待できる。

 関節リウマチ発症時喫煙者(SaO)と非喫煙者をSEの有無により4群に分け、ACPA高値(左)、RF高値(右)のリスクを、SEを持たない非喫煙者を1として算出した。ACPAでは、SEを持つ群で高いリスクが認められ、発症時喫煙者であってもSEを持たない群では、喫煙によるリスクが認められない。RFでは、SEの有無に関わらず喫煙によるリスク上昇の傾向が認められる。

                   

【プロフィル】石川優樹

 いしかわ・ゆうき 広島大学医学部医学科卒。2014年京都大学大学院医学研究科博士課程修了(医学)。15年から米国ハーバード医科大学ジョスリン糖尿病センターで研究員を務める傍ら、19年4月から日本学術振興会海外特別研究員、6月から現職。

 コメント=遺伝子解析研究により自己免疫疾患を始めとした難治性疾患の診断・治療に貢献したい。

                   

 ■理研に研究チームを作りませんか? 2020年4月の新規研究課題を募集中

 理研は、企業が抱える研究開発課題に対して企業と共同で研究開発を行う「産業界との融合的連携研究制度」について、来年4月からの新規研究課題を募集している。この制度は、企業と理研が一体のチームとなって研究開発に取り組むことで、理研の研究成果に基づく形式知(特許・論文)や暗黙知(ノウハウなど)を効率的に企業に移転、研究成果の早期実用化、次世代の技術基盤の創造を目指すもの。

 研究課題の募集は春と秋の年2回行われ、個別相談も随時受け付けている。

 【募集要項・説明会申込方法等の詳細】

 http://www.riken.jp/outreach/programs/entry/

 【締め切り】

 2019年11月18日(月)

 【問い合わせ・事前相談窓口】

 理化学研究所 科技ハブ産連本部 バトンゾーン研究推進課(日比野・鈴木・大須賀)

 (電)048・462・5459

 E-mail:yugorenkei@riken.jp

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