リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

長谷工コーポレーション「全社員が修羅場くぐり再生した誇りを持っている」

 長谷工コーポレーション・辻範明社長 2-1

 ICTなど次代開く種まき怠らず

 バブル崩壊後の倒産の危機を乗り越え、連結経常利益1000億円企業に再生した長谷工コーポレーション。2015年3月期から6カ年の経営計画「newborn HASEKO(NB計画)」の成果で、牽引(けんいん)してきた辻範明社長は「挑戦するための土台はできた」と前を向く。地方進出や海外展開、さらにはICT(情報通信技術)などデジタル技術の活用など次代を切り開くための種まきを怠らない。復活を機に社会貢献にも力を注ぐ。

 修羅場くぐり再生

 --NB計画の進捗(しんちょく)状況は

 「5年目の2019年3月期連結は、売上高が過去最高の8910億円、経常利益は2年連続で1000億円を突破した。NB計画策定時を改めて思い出すと、二度と経営危機に陥らない競争力と財務基盤を整え、困難な時期に遭遇しても攻めの勝負をできる長谷工グループにしたいということだった。5年がたち体力を付け、ちょっとやそっとでは潰れない会社になった。以前の長谷工とは違う。隔世の感があり、修羅場をくぐったからこそ今がある。頑張って再生したというプライドを全社員が持っており、次の強さにつなげるはずだ」

 --立ち直った要因は

 「建設・不動産市況が改善していく過程という好環境に恵まれた上、土地を探し出してデベロッパーに持ち込み、一体となって『売れるマンション』をつくるという独自のビジネスモデルを持っていたことが大きい。土地を持ち込むという能力を持っていなければ、苦しい時代を乗り越えることは難しかっただろう」

 技術レベル向上

 「われわれは工事を請け負って単にマンションをつくるのではなく、売れるマンションをつくる。するとデベロッパーは次の工事を発注してくれる。仕事量も安定する。施工を数多くこなすうちに技術部隊のレベルがさらに向上し、安全・安心で品質も良く、コストも低いということでデベロッパーの信頼を得てきた。この結果、NB計画の前半3カ年『NBs(newborn HASEKO step up plan)』の最終年に当たる3期目は過去最高の連結経常利益888億円を計上することができた。後半の『NBj(同jump up plan)』では2年連続で1000億円を達成できた」

 「ただNBjの1年目と2年目では1000億円の中身が変わった。19年3月期は不動産利益が伸び、工事利益の減少を補った。ここ数年取り組んできた成果でもあるが、従来なら取得しなかった狭小敷地やホテル、商業施設などの用地も積極的に押さえて、仲介などで利益を確保するように指示してきたからだ。加えて、地方の土地を探して仕込むことで長谷工グループが一体となって地方に出ていく土壌もできつつある」

 --今期は

 「連結経常利益1000億円には届かない見通しだ。土地が値上がりし、建築工事費も上昇、それに伴いマンション価格も右肩上がりで推移している。このため売れ行きピッチが落ちており、市場に陰りが見える。そういう状況でもデベロッパーに協力して売れるマンションをつくっていく」

 地方・海外市場開拓、着実に

 --売り上げ、利益の低下を抑えるため地方進出に注力している

 「今までは三大都市圏を集中して攻めてきたが、今後は全国展開を目指す。九州・沖縄地区では、17年4月に設立した九州事業部とグループ各社との連携を図り事業拡大を目指す。18年10月以降は岡山、広島、松山、宇都宮、高崎、水戸、静岡、鹿児島、札幌と順次、営業所を開設。不動産部のメンバーを配置して地域に根差した土地情報の収集活動を展開している。地方都市では主にデベロッパーとしてマンション事業拡大を図り、販売やインテリアオプション、入居後の管理、仲介、リフォーム、賃貸、将来の大規模修繕など長谷工グループ全体での収益機会につなげていく」

 住み替え活発化

 --地方は人口減少が進むが、勝算はあるのか

 「県庁所在地や県内ナンバー2の都市などはコンパクトシティー化の動きもあるのでマンション需要はある。むしろ人口減少が進む地方こそ、郊外の戸建てから中心市街地のマンションに移り住む動きが活発になっている。供給量のキャパシティーを注視しながら事業を行っていく」

 --海外展開は

 「海外ではできるだけデベロッパーではなく建設会社として進出する。この考えの下、17年3月にベトナム・ハノイで邦人向けサービスアパートメント(110戸)を完成させた。現地で確認したが、出来栄えは素晴らしかった。しかし日本国内のマンションと同程度の品質を目指してつくったので工事費は現地建設会社の2倍以上かかった。今後のプロジェクトでは品質・性能面で取捨選択しながら工事費を現地水準の1.2~1.3倍くらいに収まるように努力し、新たな受注につなげていきたい」

 「ベトナム・ホーチミン、インドネシアでもプロジェクトの検討を進めている。インドネシアではジャカルタに駐在員事務所を置いて現地調査に入っている。両方とも3~5年かけて少しずつ慎重に取り組む考えだ。また米国ハワイの『EWAプロジェクト』は4850戸の戸建て分譲だが、その約8割を販売・引き渡した。次は仕上げに当たる商業施設やホテル、コンドミニアムなどの開発に着手する予定。無理することなく一歩一歩着実に進めていきたい」

 AIなどに資金注力

 --ICTなどデジタル技術の活用は

 「導入を進めているBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)は今期中に体制整備を完了し、来期から設計を開始するマンションはほぼ100%BIM対応となる。施工においても順次BIM対応になっていく。現在は生みの苦しみで負荷がかかっているが、生産性向上に大きく寄与するはずだし、近い将来には新たな収益機会を生むことを期待している」

 「人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)といった最新のICT活用に積極的に資金を投入していく。18年10月に新設した価値創生部門には約80人を配置し、新たなビジネスモデルの創生に取り組んでいる。顔認証システムや地震・気象・給排水などの各種センサー、家庭内のエネルギー使用量の把握や家電を遠隔制御できるHEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)などを本格導入した『ICTマンション』第1号に着手した。今後もあらゆる事業領域で先進技術の積極的な活用とオープンイノベーションに取り組み、新たな価値創造に努めていく」

【プロフィル】辻範明(つじ・のりあき) 関西大学法学部卒。1975年長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。99年取締役、2005年代表取締役専務執行役員、10年代表取締役副社長、14年4月から現職。66歳。岡山県出身。

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