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なぜ「ジョーカー」は商業的に成功したか “都合の良い悪夢”の消費欲求 (1/2ページ)

 言わずと知れたDCコミックス『バットマン』の仇敵を主人公にした映画『ジョーカー』が大ヒットしています。日本では4週連続No.1となり、観客動員数は240万人に達し、興行収入は35億円を超えています(興行通信社調べ)。

 『ジョーカー』のストーリーはとてもシンプルです。社会から疎外された主人公アーサー・フレック(ホアキン・フェニックス)が、「人並みの幸せ」を手に入れようと悪戦苦闘した末に絶望し、血なまぐさい暴力とアジテーションの虜(とりこ)になっていくさまを描いています。

 「嫌われ者」が不満抱える大衆を取り込む

 格差や貧困がはびこり、愛や希望が見いだし難い、閉塞感に満ちた世界に風穴を空ける「アンチヒーロー」というわけです。これが現代を覆っているグローバル化の陰画である殺伐とした世相とものの見事にシンクロし、「暗い内容」にもかかわらず支持を集めて商業的な成功に至ったと捉えることができます。

 そもそも『ジョーカー』の作り手(監督・脚本を手掛けたトッド・フィリップスなど)は、『タクシードライバー』など70年代のカウンターカルチャーのノリを基調に制作したことを隠していません。モヒカンとサングラスという異様ないで立ちで大統領候補の暗殺を企てるトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)を、ジョーカーというコミックベースのキャラクターの造形にそっくり移植したと考えても差し支えないぐらいです。

 いつの時代も虚実を問わず「アンチヒーロー」の需要はあり、『ジョーカー』も「アンチヒーローモノ」の1つとして消費され、「今そこにある不幸」を一瞬忘れるための気晴らしとなっています。そして、さらにもう少し広い視野で眺めてみると、これが「アンチヒーロービジネス」に包含されていることが分かります。

 「アンチヒーロービジネス」とは、時代の反逆児や、世間の嫌われ者、一匹狼などの人物像と物語をウリに、現状に何らかの不満や怒りを持っていたり、体制迎合的な潮流に反発や憤りを覚えたりする者を取り込み、ある種の消費文化として収益化する商法とひとまず定義することができるでしょう。

 実際「アンチヒーロービジネス」のバリエーションは、大衆娯楽作品にとどまらずさまざまなジャンルで見いだせます。人気のオンラインサロンや、自己啓発セミナーなどはまさにその系列に入ります。主催者は「世の中の流れに逆らう」スタンスに立っていることがほとんどで、「嫌われ役」を買って出ていることが珍しくありません。

 反体制文化の単なる「消費」

 そういう意味で、YouTube講演家の鴨頭嘉人氏が自身のチャンネルの動画で述べていたように、「今、人が集まる人とは、正しいことを言う人ではない。本当のことを言う人である」は至言ともいえ、真実に近いのでないでしょうか。

 例えば、YouTubeを駆使した炎上商法でファンを獲得するNHKから国民を守る党党首の立花孝志氏は「アンチヒーロー」そのものです。少なくない人々の「自分は他人と違う」「空気を読みたくない」といったアンチ欲求に支えられている面からも、「アンチヒーロービジネス」を成り立たせている「アンチヒーローシステム」の構造は想像以上に奥が深いのです。

 つまり、「アンチヒーローシステム」は広範囲に渡っており、『ジョーカー』のような大衆娯楽作品から、前述のオンラインサロンや自己啓発セミナー、果ては新興宗教や政治運動まで、虚実を問わずわたしたちの人生に影響を及ぼしているということです(このシステムを最も凶悪な形で利用し尽くしたのが過激派組織ISIL、通称「イスラム国」です)。

 しかし、これは多くの場合、「革命の狼煙(のろし)」というより「反体制文化の消費」に落ち着きます。その証拠というわけではありませんが、『ジョーカー』はすでに「反体制のアイコン」になりつつあります。つまらない仕事をサボって『ジョーカー』を鑑賞し、腐敗した社会を爆砕した気になって“リフレッシュ”する…これが消費のされ方の“王道”というわけです。

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