リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

医療の伝統守りながら変革に挑む 日本医科大・弦間昭彦学長 (1/3ページ)

 医師とAI 協働できる仕組み重要

 日本医科大学は、黄熱病の研究で知られる野口英世らを輩出した日本最古の私立医科大学だ。創立140年を超す今も建学の精神や学是を受け継ぐ一方で、診療や教育に人工知能(AI)やロボットなど最先端テクノロジーを意欲的に取り入れている。弦間昭彦学長は「伝統を守りながら、変革に挑む」と語り、7年後の創立150年とその先も見据える。

 「済生救民」受け継ぐ

 --受け継いできた建学の精神、学是とは

 「1876年に設立した医師養成学校『済生学舎』が前身で、学祖は自由党代議士だった長谷川泰氏。紆余(うよ)曲折があって専門学校を経て1926年に日本医科大学に昇格し、それ以来、建学の精神や学是にのっとって日本の医療を支えてきた」

 「建学の精神は『済生救民』。貧しくてその上で病気に苦しんでいる人々を救うのが医師の最も大切な道であるという意味だ。一方、学是は『克己殉公』。己に克ち、広く人々のために尽くすことを医学生に伝えてきた。また、教育理念として『愛と研究心を有する質の高い医師と医学生の育成』を掲げており、医師としてあるべき姿、つまり社会に尽くす『心』を有する人材の育成に力を注いできた」

 --伝統を守ってきた

 「済生救民、克己殉公の精神は今も息づいており、野口英世のほか、第二次世界大戦後のドイツでチフスやコレラなどの疾病対策に力を尽くした肥沼信次ら多くの先輩が体現してきた。肥沼の功績は、評価されて中学2年生の道徳の教科書に取り上げられている。まさに私たちの誇りであり、伝統にほかならない。付属病院の強みとしてきた救急医療を中心とした医療にも受け継がれている」

 個々が得意分野磨け

 --変革も求めている

 「学長に就任した2015年以降、時代の流れに沿って変革が必要と考え、AIやIoT(モノのインターネット)、ロボットなどデジタル技術の活用による医療の効率化などに取り組んでいる。人間は変革を望まないものなので『やろう』と口酸っぱくいっている。診療、研究、教育の3分野すべてで一流を求めるのは難しい。そうであるならば個々の医師が得意分野、専門分野を磨き、一堂に集まれば一流の診療や教育ができる」

 「08年に放送され映画にもなった医療ドラマ『コード・ブルー ドクターヘリ救急救命』の医学監修を本学の松本尚教授が務めたが、18年にグランドオープンした付属病院の救命センターは60床を超える国内最大規模を誇る。ここは専門性の高い医師が集結する一流組織になった」

 --進歩が著しいデジタル技術を医療現場にどう生かすか

 「AIの進化などによりロボットに置き換わる仕事の割合は、カウンセラーが約10%にとどまるのに対し医師は約30%という予想もある。こうした中、問われるのは、人間がAIをどのように使っていくかということだろう。AIの記憶力には勝てないが、人間が持つ柔軟性はAIに負けない」

 「医療における大きなテーマは大量の文献データや患者から得られるデータをもとに正しく診断して最も有効な治療を行うことだが、判断に求められるエビデンス(証拠)が不十分な場合がある。こうしたときAIがどこまで判断できるか。それは難しいことだろう。それでも医師は判断を下さなければならない。経験からくる判断力や直感が問われるわけで、医師の強みといえる」

 --難しい判断を求められる場合が少なくない

 「医学的正解が最良とはかぎらない。例えば歌手がイベント前日に声が出なくなったり、枯れたりした場合にどうするか。歌手は『どうしても中止にできないので明日までに直して』と頼み込む。吸入ステロイド薬の投入が正解だとしても、歌手にとっては将来の副作用より明日のステージが大事と医師が判断すれば、ステロイドを吸入させるのではなく全身投与を選ぶ。人生観は皆違うので、医師に求められるのは患者の気持ちを理解し判断する力だ。患者の話を聞いて判断するカウンセラーのロボット代替率が約10%に過ぎないのもうなずける」

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