リーダーの視点 鶴田東洋彦が聞く

藍澤証券・藍澤卓弥社長 顧客本位で資産形成ビジネス集中

 藍澤証券・藍澤卓弥社長に聞く(2)

 --金融教育については

 「大学に寄付講座を開いているが、金融リテラシー(知識・判断力)向上の必要性を痛感している。日本にとって喫緊の課題だ。われわれが行っているだけでは何も起こらない。国や日本証券業協会、さらにはお客さまとも向き合って取り組まないと前に進まない。ある投資家向けアンケートでは『生活していく上で投資は必要か』という問いに8割が不要と回答した。この回答者に対し『金融知識向上の教育を受けたことがあるか』と聞くと7割がないと答えたそうだ。このことからも金融教育の重要性を痛感している」

 ベトナム株に注力

 --顧客の資産形成ニーズは高まっていると聞くが

 「投資と投機の違いが不明瞭な方々も多く、株式投資に対し色眼鏡で見られてしまうわけだが、そもそも資産形成教育を受けていないことが問題だ。証券会社側にも問題がある。アセットマネジメント(資産管理)が求められる時代において、証券会社は顧客に『いい銘柄を買ってもうけましょう』と勧める。買った銘柄の株価が下がると回収チャンスを待ち、上昇すると手じまいし、その後は取引をしない。『もうけましょう』のセールストークで買ったので、『もうけた』ことで目的を達成してしまったからだ」

 「アセットマネジメントは一過性ではなく生涯かけて取引を続けるもの。若い人の老後不安に応えるには、誰もが金融サービスにアクセスでき金融サービスの恩恵を受けられるファイナンスインクルージョンが必要だ。そのためにわれわれは資産形成ビジネスに集中する。今まで必要性を感じていてもなかなか足を踏み出せなかったが、痛感した。アセットマネジメントビジネスにかじを切る」

 --海外展開は

 「中期計画でも集中する取り組みとして、12市場で取引を展開し強みを持つアジアを挙げている。足元では米国株が7割を占めるが、将来は大きく経済成長するアジア株が増える。中でも注力しているのがベトナムだ。投資家の関心も高く、買収した現地子会社『ジャパン セキュリティーズ』を活用し9月から、日本株を売買するようにリアルタイムで指し値注文ができるようになった。従来は前場と後場の開始前にそれぞれ注文を一括して発注するため取引時間中は注文できなかった」

 「次はインドといわれるが、リサーチを進めると制約が多く時期尚早だ。インド人社員に現地市場をウオッチさせるが、しばらくは様子見だ。アジア株のパイオニアとして『アジアの藍澤』といわれることは自慢でもあるが、顧客の資産形成にアジア株をどう生かすか。あらゆるものを資産形成のために取り込む」

 変化に強い人材育成

 --昨年10月にCHO(最高人事責任者)戦略人事担当を兼務した。狙いは

 「証券業界に限らず、企業にとって最も重要なアセットは人だ。社長が人事に責任を持つのは自然なこと。約1000人の社員一人一人とコミュニケーションを取って接するメリットは大きい。人を見すぎると私見、私情が入るとか、特定の人に肩入れすることになりかねないというが、そんなことはない。その人の考え方を知ると、会社としてどう生かすべきかというアイデアも浮かぶ」

 「上(経営陣)が決めて下(社員)が実行するという従来のプロセスを改める。一人一人を見て『こういうことができる』と分かれば『やらせてみよう』という経営の組み立てがあってもいいはずだ。人的資源を生かすのが社長であり、CHOは自分の役割だ」

 --人材育成は

 「個々の社員の問題意識を育てるCDP(キャリア・デベロップメント・プログラム)を導入した。ポイントはキャリアを自分でつくること。今は制度設計の段階だが、証券業務を機能別に分けて社員がやりたい仕事を選ぶようにする。上が押しつけて『行きなさい』『やりなさい』では悲しい」

 「理想とする仕事を見つけ、そこに向かってとことん追求する。自ら選んだ仕事なのだから、これまで以上に責任を持つはずだし、そうなれば間違いなく会社にも貢献できる。先行き不透明で『一寸先は闇』のような時代でもあるので、変化に強い人材をつくりたい。10年後には変化に負けず、一人で生きていける社員の集合体になる」

 音楽でリラックス サクソフォンを吹きたい

 --「生き馬の目を抜く」といわれてきた証券業界に身を置く。ストレスもたまるのでは

 「ジャズ好き、クラリネット好きで、リラックスに音楽は欠かせない。中学生のときにはピアノを習い、高校で管楽器奏者になった。学生時代にはクラリネットをそれこそ四六時中吹いていた。社会人になっても野村総合研究所時代の当初5年間ほどは会社から帰ると吹き、土日も吹いた。30歳くらいまでは常にそばにあって支えてくれる存在だった」

 「最近はさっぱりご無沙汰しているが、40代半ばになって再開したい気持ちが強くなっている。昔訪れた場所に再度行ってみたくなる気持ちと同じで、これからはサクソフォンを吹きたい。指の使い方がクラリネットと同じで、音を出すのも比較的容易だから。しかし、アーティスティック(芸術的)な表現は難しい」

 --聴く方は

 「ジャズやクラシックを聴いている。リストを作成して状況に応じて聞き分けており、オーケストラの演奏はじっくりと聴き、リラックスしたいときや考え事をしているときは軽快なジャズの音楽を聴く。その中でも好きなのは米サクソフォン奏者のデクスター・ゴードン。骨太で、派手とかきらびやかというより、一つ一つ聴かせる。米ジャズピアニストのビル・エヴァンスも好き。しかし仕事が立て込んでくると、音楽を聴く時間もとれなくなる。音楽でストレスが解消されるのは分かっているのに、忙しさにかまけて音楽をたしなむことがなおざりになってしまっている。残念なことで、音楽ともう一度つきあっていきたい」

 --座右の銘は

 「政治家・尾崎行雄の言葉で『人生の本舞台は常に将来に在り』。70歳半ばのとき、三重県を遊説中に風邪をこじらせ心身ともに疲弊する中、この言葉が浮かび上がったといわれている。『昨日までは人生の序章に過ぎず、今日以降がその本舞台』という意味だそうで、80歳になっても人生の本舞台はこれからであり、希望を持って生きる。この言葉を聞くと自分が小さく感じる。落ち込んでいるとき、言葉を思い出して自らを鼓舞する」

 --座右の銘にするにあたり、どんな経緯があったのか

 「実は小泉純一郎元首相が結婚式のスピーチでお話ししていただいた中の一節で『希望を持って生きなさい』と。2007年で役員にもなっていないときだった。結婚式を挙げないつもりでいたが、将来の自分のポジション(社長)を考えると披露することは大事だといってもう一つ贈ってくれた。平成天皇・皇后両陛下が1994年にご訪米した際、当時のビル・クリントン米大統領が歓迎式典でスピーチした橘曙覧の歌で『たのしみは朝起きいでて昨日まで 無かりし花の咲ける見る時』を引用。『我慢できないときには日常生活の些細(ささい)なことにも幸せを感じなさい』と話してくれた」

 「小泉元首相は、尾崎行雄の言葉から『仕事で会社を大きくしなさい』と激励する一方で、橘曙覧の歌から『つらくても日々の生活で回復したり平静を取り戻したりしなさい』と、トップの苦悩を分かった上で2つの言葉を贈ってくれた」

【プロフィル】藍澤卓弥

 あいざわ・たくや 慶応大総合政策学部卒。1997年野村総合研究所入社。2005年藍澤証券入社。12年取締役、専務、日本アジア証券社長などを経て18年7月から現職。45歳。東京都出身。

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