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国際大会で知るべき開催地の「身の丈」とは

 スポーツの国際大会を開催する際に、最も重要なことは何かと問われて、どう考えるか。大半の方は、開催地の盛り上がりとか、経済波及効果などの言葉が並ぶかもしれない。レガシーをどう残すか、と考える方もいらっしゃるかもしれない。(フリーランスプランナー・今昌司)

 しかし、それらは全て結果である。結果を成果とするためには、大会を一つの事業として、より安定的に、より安全に運営していくための仕組み作りを綿密に行わなければならない。さらに言えば、それは質という言葉で集約できる。

 スポーツの国際大会の質とは、各競技を世界的に統括する国際競技連盟(IF)が、当該スポーツの存在価値を高めていくための資産であり、戦略的に言えば、経営資源とも言える。つまり、国際大会の質とは、その競技の勝者を決する場としての大会の在り方を、より高いレベルで具体化し得る能力の在り方として示すものではないか、と私は考える。

 独自基準は通用せず

 2020年東京オリンピックのマラソンと競歩の会場が急遽(きゅうきょ)変更された。決定したのは国際オリンピック委員会(IOC)である。開催都市の東京都、大会運営を担う組織委員会、日本陸上競技連盟も寝耳に水ということで大論争が巻き起こった。

 事の経過を冷静に見れば、オリンピックという競技大会において、その大会の質を高めていく責務を背負い、開催を主導する立場にあるのはIOCであり、オリンピック憲章にもその立場の正当性は明確に示されている。最終の決定権はIOCにあり、都にすら何ら決定権はない。

 都は日本オリンピック委員会(JOC)や各競技の国内競技団体とともに、大会運営を担う組織としての組織委員会の一員でしかない。オリンピックの仕組みを変えるような決定権を、どんなに開催地の利益になろうとも持っていない。組織委がやるべきことは、IOCの決定をオリンピックという競技大会の質を担保し得る高い運営環境において、具現化していくことなのである。

 国内で国際大会を開催するとき、大会の主催者たる国際競技連盟は、その大会の質を担保していくための詳細なレギュレーションを開催国に対して示す。開催国としての役割は、そのレギュレーションで示された要件を、いかに現状環境にマッチさせ、経済的にも理にかなう方法で具体化していくか、ということである。

 しかし、地方都市で国際大会を開催する場合、その開催地の競技関係者は、異口同音にこのように言ってくる。「われわれにはわれわれのやり方があるから大丈夫だ」と。国際大会とは、日本の現行基準で実施できればいい、という事業ではない。主催する国際競技連盟が、レギュレーションにおいて示す担保されるべき質こそが、具体化していくべき大会の姿そのものであり、それは国内で開催されている大会を再現することではない。

 決定権者見極め必要

 その辺の本質の捉え方の格差に、日本のスポーツの価値観を世界レベルに高めることができない原因がある気がしてならない。ドーハの世界陸上で、数多くの棄権者を出したマラソンや競歩を踏まえ、陸上競技の世界統括組織であるワールドアスレチックス(WA)は、高温多湿の中で実施される東京での競技に危機感を抱いただろう。特に、マラソンはオリンピック全体の華とも言える競技である。

 今回の決定も、WAの意向がIOCの決定に大きな影響を与えたことは疑いの余地はない。誰が決めるのか。誰が決める権限を持っているのか。国際大会の現場では、その人および組織を見極めることが、成否を握る最も重要な要件となるのである。

【プロフィル】今昌司

 こん・まさし 専修大法卒。広告会社各社で営業やスポーツ事業を担当。伊藤忠商事、ナイキジャパンを経て、2002年からフリーランスで国際スポーツ大会の運営計画設計、運営実務のほか、スポーツマーケティング企画業に従事。16年から亜細亜大経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科非常勤講師も務める。

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