高論卓説

巨大企業に対する中国のジレンマ プラットフォーマーを規制すべきか

 世界におけるデジタル化の進展は既存ビジネスの破壊とともに、人々の行動や生活スタイル、人間同士のつながりに変化を及ぼし、人間社会に新たな繁栄をもたらしてきた。中でも、米国のGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)や中国のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)といったメガテック企業がさまざまなサービスを提供するプラットフォーマーとして、最も影響力のある企業群にまで成長している。(チョウ・イーリン)

 ただ、テクノロジーの進化を象徴するこれらプラットフォーマー企業にとっては、外部環境の潮目が変わり始めている。とりわけ、市場独占やセキュリティー問題、個人情報の収集と囲い込みなどが問題視されており、欧州や米国、日本などはGAFAに対する規制を強めようとしている。

 BATの場合は中国の経済成長や巨大な国内市場、自国企業に有利な国内規制を生かし、中国国内では絶対のスケールと影響力を示す。中国政府はこれら巨大企業だけでなく、ベンチャー企業が取り組む新サービスに対しても支障が生じない限り規制を緩めるスタンスをとる。それによって新たなイノベーションが生まれてくると考えるためだ。しかし、アリババやテンセントなど巨大プラットフォーマーは中国の経済社会のデジタルシフトを牽引(けんいん)する一方、独占企業の弊害が顕在化してきた。

 2010年頃、セキュリティーソフトで知られる「奇虎360」は、テンセントの人気SNS(会員制交流サイト)サービスである「QQ」がユーザーのプライバシーを侵害していると指摘した。これに対してテンセントは奇虎360がインストールされているパソコンへのQQ登録の禁止に踏み切ったため、多くのユーザーは二者択一の局面に追い込まれた。両社の争いは法廷闘争にまで発展し、結局は奇虎360が敗訴したが、テンセントの戦略がそれまでのクローズ型からオープン型へシフトする契機となった。

 また、中国では今年1月1日に『電子商取引法』が施行された。同法はEC(電子商取引)業界のガバナンスを強化し、不正競争や独占的な慣行を規制することを定めた。しかし、EC業界の一大イベントである「独身の日」セール直前の11月上旬に、出店業者が一つのECプラットフォーマーにしか出店できないという排他的関係の強要問題がクローズアップされた。国家市場監督管理総局はアリババをはじめとするECプラットフォーマーに対して、出店業者に他のプラットフォーマーとの取引の制限を求めることは法律違反だと警告を発した。

 プラットフォームビジネスが持つ重要な特徴として「Winner-Takes-All」(独り勝ち)が挙げられる。ユーザーが増えれば増えるほど利用者が集まるネットワーク効果が働き、プラットフォーマーの優位性を確立し、独り勝ちになりやすいと考えられるが、その強い立場を不正に利用することが懸念されている。この夏に中国政府は「プラットフォーム経済の規範的、健全な発展の促進に関する指導意見」を打ち出した。プラットフォームビジネスのさらなる発展に注力しようとしている中国は、膨大なユーザー数を擁し、雇用も作っている巨大プラットフォーマーに対する規制を強化すべきか否か、ジレンマに直面している。

【プロフィル】趙●琳(チョウ・イーリン、●=偉のにんべんを王に) 伊藤忠総研産業調査センター主任研究員。2008年東工大院社会理工学研究科修了、博士(学術)。早大商学学術院総合研究所、富士通総研を経て、19年9月から現職。中国遼寧省出身。

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