深層リポート

ヘイト条例実効性は 川崎市が罰則付き条例可決へ

 川崎市は、公共の場でヘイトスピーチ(憎悪表現)を繰り返した者に50万円以下の罰金を科す全国初の刑事罰規定を盛り込んだ差別禁止条例案を12月中に成立、来年7月の施行を目指している。ただ、市内では条例の規制対象となりうる誹謗(ひぼう)中傷はなりを潜めており、条例の実効性は乏しい。一方で、ヘイトをめぐる対立はいまも頻発し、少なくない市民が影響を受けている。そうした「ヘイトなきヘイト問題」を憂慮する市には、解決に向けた“次の一手”が早くも求められている。

 コリアタウンがあり、在日韓国・朝鮮人が多く居住する川崎では、過去に住人らを誹謗中傷する内容のデモが頻発。平成28年のヘイトスピーチ解消法成立の契機となった。最近はそうしたデモも見られなくなったが、JR川崎駅前などではヘイトをめぐる対立が定期的に起きている。

 対立では、ヘイトスピーチに反対する集団が、街宣活動を行う団体を「ヘイト団体だ」などと指摘し、「カウンター」と称して対抗。妨害音を鳴らして演説をかき消し、「川崎から出ていけ」などの言葉をぶつける。参加者の一人は「川崎で負けるわけにはいかない」と話すなど、各地で起きている対立の中でも、市内はヘイトスピーチ反対派にとって橋頭堡(きょうとうほ)のような認識を持たれているといえそうだ。

 抑止力にならず

 ただ、対立の現場で街宣する側は、外国人参政権への反対などを訴えており、条例が規制するような「朝鮮人は出ていけ」「死ね」などのヘイトスピーチに該当する誹謗中傷は現在、表立って発せられていない。

 では、なぜ反対活動を行うのか。関係者の一人は「彼らはヘイトスピーチを行ってきた団体。存在自体が“ヘイト”であり、街宣が行われることで傷つく人がいる。許すわけにいかない」。別の関係者は「街宣活動が続く限り対抗していく」と息巻いた。

 市が制定を目指す罰則付き条例は、ヘイトスピーチをした者に対し、違反行為を行わないよう、まずは勧告▽2回目は命令▽3回目で警察や検察を通し、裁判所が罰金刑を下す-という内容で、あくまで発言を規制するものだ。

 過去に頻発したようなデモに対する抑止力にはなり得ても、差別的表現が発せられない現在のヘイト対立の解消には、市側も「(抑止力や実効性は)全くない」(担当者)と言い切っている。

 困惑する市民

 街頭で繰り返されるヘイト対立に、困惑の表情をみせる人は少なくない。市外から訪れた通行人らは口々に「うるさい」「一体、何ごとかと思った」などとあきれた声をもらし、近隣の住人らからは「街のイメージが悪くなる」「大人がみっともない」などの声が聞かれる。

 こうした事態について、福田紀彦市長は「迷惑に感じている市民もいるし、市外から来る人にとって街の印象も非常に良くない」との見方を示している。ただ、対立の解消には、市は今のところ何の対策も示していない。

 市内では9月末、「ヘイトには反対するが、条例制定にも反対する」と主張する団体が新設されるなど、ヘイトに関する動きはなお、かまびすしい。市は条例制定に向けて邁進(まいしん)するが、事態は既に次のステージに移って久しい。

 ヘイトスピーチ 特定の国籍や民族、人種に対して、差別や暴力、排斥をあおる憎悪表現。川崎市では29年11月、市立公園や公民館など、公的施設でのヘイトスピーチを事前規制するガイドラインを策定。30年3月末から施行している。

 【記者の独り言】

 川崎市は規制の条例化にあたり、「ヘイト対策の最前線であることを全国に示す」と標榜(ひょうぼう)しているが、現実に市内で起きているヘイト対立が、条例化によってなくならないことは明らかで、改めて市の姿勢が問われる。

 市が対立への対処に及び腰であることは、市の担当者が「行政が演説を規制しては言論の自由が崩壊する」と述べていることからもうかがえる。一方、市が対立を苦々しく見ていることも確かだ。あれこれ理由をつけて真に有効な対策を取らないでいることは、むしろヘイト対立に後ろ向きな姿勢を全国に示すということになるのではないか。(外崎晃彦)

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