高論卓説

午後6時半で職員のPCを強制終了 “脅しの経営”に長続きしたケースはない

 スケジュール効率化でロスは防げる

 大阪府庁が午後6時半に職員のパソコンを強制的にシャットダウンする方針を発表した。時間外勤務申請をしなければ6時20分に予告メッセージがパソコンに送られ、その10分後にパソコンが一斉にオフになるという。

 私はこの方針に、強い違和感を覚えざるを得ない。職員に残業指示をしたり、職員から残業申請させたりして、残業するかどうかを判断するのは、個々の管理職の役割ではないか。職員の健康状態を踏まえて残業であろうがなかろうが勤務時間の調整や配慮をするのも、個々の管理職が果たすべき職責だ。職員の状況も多様で、業務の内容もさまざまだ。ゆえにそれぞれの管理職がその都度判断して適切な対応をすることが望まれている。にもかかわらず、一律6時半に一斉強制終了するという。これでは、「個々の管理職は残業管理の役割や健康管理の職責を果たすことができません」というメッセージに聞こえないだろうか。

 そして、管理職が機能していないことを棚に上げて、職員に対してパソコンを強制終了するという対応は、対処すべき対象をはき違えているように思えてならない。職員からみれば、「仕事を終えなければシャットダウンするぞ」「残業申請しなければ強制終了するぞ」という脅しをかけているように思えてしまう。

 実は、多くの企業や団体で、上司から部下に対して、脅し文句ととられかねないフレーズが語られている。「この業務をやり遂げなければ、後がない」「目標を達成しないとポジションにとどまれない」「成功させなければ組織の存続が危うい」という類だ。そして、たいていの場合、業務遂行や目標達成や成功のための仕組みや仕掛けの具体的な示唆がない。具体的な手法が見当つかないから、脅すしかないという状況に陥るのだ。

 今回の一斉強制終了の取り組みには、その脅しのニュアンスが漂っている。いわば脅しの経営だ。脅しの経営は、ほんの一時は、その恐怖心からメンバーを強制的に動かすことができるかもしれないが、長続きしたケースはなく、持続的成長を遂げるための手法とは言い難い。

 では、脅しの経営に陥らずに、目的をかなえるには、どうすればよいのだろうか。それは、職員を脅す前に、職員に仕組みや仕掛けや具体的な手法を提供することだ。例えば、残業縮減や生産性向上に効果のある方法は、スケジュールを(1)その日に実施しなくてもよい業務を除外(2)他の人が実施していたり他の人が実施したりした方が早く終わる仕事をより分ける(3)残った仕事の優先順位付け-などして、その日に集中的に実施する方法だ。そして、優先順位付けの基準が上司と部下によって違っていることがとても多いので、優先順位基準のすり合わせをしておくことが不可欠だ。例えば、そのアクションを実施しなければ目標達成できないという目標達成寄与度で優先順位付けするか、緊急度で優先順位付けするか、売り上げ貢献度で優先順位付けするかという基準の目線合わせをすることだ。

 これをやっておくだけでも、優先順位付けの基準がすり合っていないことによるロスや調整に必要な工数を大幅に削減でき、生産性が上がる。ここに挙げたのは、ほんの一例だが職員に脅しのフレーズを投げ掛けたくなったら、その前に、具体的な手法を提供すること、これが管理職やリーダーの本来の役割ではないかと思えてならない。

【プロフィル】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。

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