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よみがえった「凍れる音楽」 国宝・薬師寺東塔の耐震化、その全貌

 薬師寺(奈良市)で約110年ぶりに行われてきた国宝・東塔(奈良時代)の解体修理がほぼ完了し、建物を覆っていた素屋根が撤去されつつある。よみがえった「凍れる音楽」とたたえられる優美な姿。1300年前の奈良時代に建てられた同寺で唯一現存する古代木造建築だが、近い将来起きると予想される南海トラフ地震などを見据え、耐震化を伴う修理が急務とされていた。(岩口利一)

 修理は約10年にもおよび、来年4月に待望の落慶法要を迎える。裳階(もこし)(飾り屋根)が付く律動的な姿が多くの人を魅了してきた三重塔(高さ約34メートル)だが、修理前は悲惨な状況だった。礎石が沈下し、中心を貫く心柱(しんばしら)も虫害や腐食によって空洞化していることが判明したのだ。

 このため、鈴木嘉吉・元奈良国立文化財研究所長を委員長とする専門委員会が、修理方法などについて調査。慎重に作業が進められてきた。

 修理は、使用できる部材などはそのままに、劣化した箇所など必要部分を補強するという方法をとった。県文化財保存事務所薬師寺出張所の金子隆之主任は「幕末にも大地震があったようだが、東塔は持ちこたえた。しかし今は、かなり大きな地震を想定しないといけない」と話す。

 高さ約30メートルにも達する心柱は、上下2本の材でつながれている。下部は創建当初(8世紀)の材だが、上部は14世紀の材。上部は何らかの被害によって取り換えられ、その後も保たれたとみられる。

 だが、南海トラフ地震などが懸念される中、補強を急ぐ必要があるとして、塔を支える基壇を補強。元の基壇をコンクリート製の基礎で覆って強化し、その上に本体を組み立てた。ただ、心柱だけは宗教的意義も考慮し、元の基壇の心礎上に据えられている。

 塔は本来、「仏舎利(ぶっしゃり)」(釈迦の遺骨を意味するもの)を安置する聖なる場で、今年2月には心柱の頂部に仏舎利を納め直す法要が営まれた。薬師寺の加藤朝胤(ちょういん)管主は「心柱は(仏舎利を安置する)卒塔婆(そとば)であり、釈迦の象徴」とその重要性を強調。「塔は舎利信仰なので、今回(の修理など)を通じて釈迦の教え、精神性を伝えたい」と語る。

 その心柱も腐食部分は削って別の材で補強した。さらに、笛を吹く天人の姿で知られる塔頂部の銅製の飾り「水煙(すいえん)」も損傷が激しく、伝統工芸高岡銅器振興協同組合(富山県高岡市)によって新調された。

 薬師寺は修理成就を願う一般の人たちに特別写経(10組20巻)として、釈迦の功徳をたたえる「舎利礼文(らいもん)」を書写してもらっている。一組2巻のうち1巻は東塔に、もう1巻は釈迦の聖地、インド・ブッダガヤにある、日本の国際仏教興隆協会が運営する日本寺に納入され、釈迦の教えを知る機会となっている。

 加藤管主は「東塔が1300年守り伝えられ、未来につながっていくのは実にすごい。大勢の人の祈りが込められており、その心を未来につなげることが私たちの役目」と語る。東塔の解体修理は、仏法の原点に立ち返ることも教えてくれているようだ。

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