大家俊夫のヘルスアイ

データサイエンティスト 新事業構築の成否握る存在

 ヘルスケア分野でデータサイエンティストの役割に注目が集まっている。データを活用して新規ビジネスモデルの変革する可能性を秘めている。

 ITなど異業種と連携

 データ活用で従来の製薬会社の殻を破ろうとしているのがエーザイだ。ITや保険会社という異業種と連携して、認知症の予知・予防の事業化に乗り出した。

 同社の内藤晴夫・代表執行役CEOは「予知(Prediction)と予防(Prevention)のミックスの時代になっていく」とし、「データによって生み出される価値を用いる。予知・予防に関するアルゴリズムを開発し、(異業種との)協業を通じてさまざまな便益を作り出していく」と語る。

 エーザイでは認知症治療薬の開発・販売で蓄積してきたデータを活用するとしており、「新ビジネスの成否を握るのはデータサイエンティストの存在」(専門家)とみられている。

 英国系製薬会社グラクソ・スミスクライン(GSK)の営業部門長、大山功倫さんは東京医科歯科大学大学院博士課程にも在籍する。

 大山さんによると、製薬会社のデータ活用の例は「公知申請」という制度にもみられるという。「本来ならその症状に使えない薬でも、海外の症例実績などを基に医師は適応外で投与することがある。製薬会社はそのデータを取りまとめて、厚生労働省に申請する」

 この方法によって臨床試験を経ずに、適応の承認が取れるケースが多くある。「薬剤の効果などのデータを収集・分析するのは製薬会社ではデータサイエンティストの大切な業務」(大山さん)という。

 そもそもデータサイエンティストにはどのような素養が必要なのだろうか。

 「統計や人工知能(AI)に精通しているだけでなく、社内・社外データを分析・活用し業務改善や新しいビジネスモデルの構築を支援するのがデータサイエンティストの仕事だ」

 「板橋区立企業活性化センター」のデータサイエンス入門講座で講師を務めるデータミックス(東京)の社長、堅田洋資さんはこのように解説する。

 このビジネス支援の能力はヘルスケア分野では特に重視されている。

 実際の求人サイトには次のような米国系製薬会社の募集が載っていた。一部を紹介する。

 ・学歴 大学院・大学卒以上

 ・DM経験10年以上

 ・業界経験。その経験で培った臨床薬の開発やPMSに関連するプロセスについて十分な理解

 関係者によると、DMはデータマネジメントのことで、臨床試験の取りまとめの仕事。PMSは薬剤の販売後、一定期間行う副作用調査を指す。これらの条件は医療ビジネスの経験、現場に詳しい人材が必要ということになる。

 課題はビジネス感覚

 大山さんは一般論として次のように話す。

 「データサイエンティストにビジネス感覚がないことが課題だ。データを裁くのは上手だが、ビジネスに直結しない仕事をしているのが私の印象だ」

 ヘルスケア分野ではヘルスデータサイエンティスト協会(理事長・高木安雄慶応大学名誉教授)という団体が2年前に設立され、保健・医療・介護関連の課題解決に科学的思考と分析的な手法で取り組み、この分野の人材育成に努めている。

 同協会に理事として関わる慶応大学大学院の渡辺美智子教授(統計科学・データサイエンス論)はヘルスケア分野のデータサイエンティストの役割について「予防医療から医療システムの改革などリアルワールドデータを活用した新規モデルの開発が重要になっている。医療の専門家と一緒に、こうした事業の開発に参画できる能力が期待される」と話している。(産経新聞編集委員)=随時掲載

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