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“プロ料理人御用達”の街が今や…アナタは何しにかっぱ橋道具街へ? (3/3ページ)

 「オーナー店主が減り、サラリーマンのシェフや店長が増えました。その昔は、腹巻きに100万円の札束を入れて買いに来た名物店主もいた。『この場で現金で払うから、もっと勉強しろ(まけろ)』と。こちらもそのやりとりを楽しみました。今はサンプルを1つ買って『会社に持ち帰って検討します』という人も目立ちますね」(本氏)

 チェーン店では、まだ規模が小さいうちは、道具街の店と付き合っても、規模が大きくなると、陶器などの生産地と直接取引する例もある。この場合は特に問屋を介さないことによるコスト重視だという。

 こうした日本人の飲食関係者の需要落ち込みをカバーするのが、外国人客だ。

 「例えば道具街の包丁店の場合、用途別に大から小まであります。プロの外国人料理人は『この食材を切るにはこのサイズ』とサイズ別に買われます。一方、数年前に目立った中国人観光客は、お土産としての購入です。日本人が海外旅行でお菓子をまとめ買いするように、気に入った包丁の同サイズをまとめ買いされることも多いのです」(新實氏)

 「小松屋」では、外国人個人客でも大量買いが目立つという。

 「5人家族なら、5個×3セットというように買われます。本国に持ち帰る途中で破損しないよう何重にも梱包しますね。当社は海外輸出事業部もあり、欧州の日本食レストランにも食器を送っています」

 こうした個人需要にも支えられ、小松屋の売り上げは年々伸びているという。

 ネットにはない実店舗ならではの強みがある

 そうはいっても「ネットで買う」のが目立つ時代だ。例えば家電は、実店舗がショールーム化しており、店で説明を聞いてネットの最安値で購入--という話も聞く。

 「そうした風潮は否定しませんが、道具街が掲げるのは『プロを支えるプロの街』で、専門知識が豊富な店員が対応します。各店には長年勤める名物店員も多いのです」

 こう話す本氏は、さらにこう続ける。

 「例えば若い夫婦が飲食店を開業する場合、食器や什器はできるだけひとつの店でそろえるのを勧めます。特に食器の場合は、使っているうちに欠けたり破損したりします。そうした時に、すぐ同じ食器を補充できるからです」

 「価格重視もあるが、安さだけで選ばないほうがいい」とも言う。飲食業界をよく取材する筆者も「百均の店で買いそろえて繁盛店になった例はない」という話も耳にしてきた。

 「時には直接届けることもあります。私は配達も好き。この間も来店したお客さんに届けるために群馬県伊勢崎市に行きました。『こんな遠くからお客さんが来てくれたんだ』と思いますしね」

 冒頭で紹介した「店頭になければない」と言わないのも、実店舗ならではだ。「日本のよさを外国人に教えてもらう」ことが多い時代。道具街に来る外国人客の一部は、そうした本質を見抜いているのかもしれない。

 高井 尚之(たかい・なおゆき)

 経済ジャーナリスト

 1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

 (経済ジャーナリスト 高井 尚之)(PRESIDENT Online)

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