話題・その他

「人手不足倒産」 求人難・賃金上昇…廃業へ

 2019年の倒産件数が11年ぶりに増加へ転じ、人手不足が景気の下押し要因になっていることが改めて浮き彫りになった。日本経済は失業率2%台前半というほぼ完全雇用の状態にあり、人口減少で需要に見合う労働力を確保できない構造的課題に直面している。政府が進める外国人材の活用だけでなく、副業解禁による潜在的労働力の確保など総力戦が必要だ。

 宮城県名取市の自動車運送業「仙杜物流」は昨年12月2日、運転資金が不足する資金ショートを起こし、破産手続きを弁護士に一任した。大型トレーラーによる海上コンテナ輸送などに力を入れていたが、求人を頻繁に行ってもドライバーが集まらず、売り上げが伸び悩んだ末の倒産だった。

 こうした人手不足倒産は19年に2年連続で過去最多を更新した。前年に比べ、中核的社員の転職などで事業が継続できなかった「従業員退職」型が8割増、従業員が確保できない「求人難」型や賃金などの上昇で経営が維持できなくなった「人件費高騰」型がそれぞれ3割増と大幅に増加した。小売業や、介護などサービス業の中小企業を中心に、働き手が見つからず廃業に追い込まれるケースが多い。

 公式にはまだ「戦後最長の景気拡大」が続くとはいえ、人口減少による労働力不足を解消できなければ、人的サービスの需要が増えても供給が追いつかず、中長期的な成長の絵が描けない。

 中小企業庁の試算では、中小零細企業の廃業が急増することで25年ごろまでの10年間に約650万人の雇用と22兆円の国内総生産(GDP)が失われるという。

 このため大企業を中心に、高齢化が進む建設現場の自動化などIT技術を活用した生産性向上が進むほか、中小企業も女性や高齢者を含む新たな働き手の確保が喫緊の課題だ。20代を中心に今の仕事を続けながら兼業で副収入を得たいと考える人も増えている。

 第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「完全雇用だと思ってもまだ労働力を使い尽くしていない。企業が就業規則を柔軟化し、潜在的労働力を取り込むことが大切だ」と指摘する。(田辺裕晶)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus