高論卓説

米中「第1弾」合意は期待薄 需要を生まず、景気回復感なき株高の継続へ

 米中が合意に達した通商協議「第1弾」は、市場の期待とは裏腹に、世界経済の需要増にはつながらない可能性が大きい。他方、緩和マネーを背景に世界的な株高が継続し「景気回復感なき株高」の流れがメインシナリオだ。(田巻一彦)

 合意した内容によると、中国は今後2年間にモノとサービスの輸入を2017年比で2000億ドル増額する。17年の実績が1860億ドルだったので、急カーブを描いて増加するイメージだ。

 だが、中国の経済成長率はかつての2桁の伸びから今年は6%に減速するとみられ、これだけの輸入増を吸収するのは難しい。

 また、2年間の増加額を単年度にならした場合、17年比で50%を超える増加となるだけに、競合する分野の中国企業は大きな痛手になりそうだ。例えば、自動車分野では、米国製の急増は、中国製への打撃になりかねず、合意発表直後の市場で中国の自動車メーカー株は下落した。

 一方、中国から米国への輸出に関しては、2500億ドル分に25%の関税が残る。1200億ドル分にも7.5%の関税がかかり、中国からの対米輸出が急回復することは望み薄だ。市場が期待する「第2弾合意」も、中国がかたくなに拒否する「補助金」規制が大きなテーマになる予定で、歩み寄りは難しい。

 中国共産党機関紙・人民日報傘下の環球時報は15日、関係筋の話として、第2段階の交渉は、すぐには始まらない可能性があると伝えていた。とすれば、20年の世界経済の成長率を2.5%とした世界銀行の予測のように、世界経済は低水準で横ばいとなるのではないか。

 他方、先進各国の超緩和政策の結果、世界のマーケットは過剰流動性のうねりが収束せず、少しでも利回りの高い市場を目指してマネーが流入する。

 だが、主要な世界の債券市場では、投資家の「イールドハンティング」の果てに、目ぼしい金利は「刈り取られ」てしまい、今やリターンが見込めて流動性もあるのは、株式市場だけという状況が生まれている。

 特に独り勝ちの米国経済をみて、米株式市場にマネーが流れ込み、そう遠くない時期にダウは3万ドルを突破するだろう。東京市場では、米株とのつれ高を期待する市場参加者が多いが、新しいリーディング企業が見当たらない日本経済を反映し、日本株の上昇率は米株に劣後すると予想する。日経平均は上がっても、2万5000円台で折り返すシナリオが有力だ。

 円相場はドルが買われやすく、いずれ110円台に定着し、さらに円安を目指すだろう。この際の最大のリスクは、トランプ大統領の発言とみる。「円は安過ぎる」と“一喝”された途端、急速に円高方向に向かう「構造問題」を抱えていると指摘したい。逆に言えば、トランプ発言の直前まで、じりじりと円安が進むと予想する。マーケットと実体経済のギャップが、じわじわと拡大するだろう。

【プロフィル】田巻一彦

 たまき・かずひこ ロイターシニアエディター。慶大卒。毎日新聞経済部を経て、ロイター副編集長、ニュースエディターなどを歴任。東京都出身。

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