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新型肺炎、まずは情報開示を

 毎朝、新聞の数字をみるたびに憂鬱になる。新型コロナウイルスによる肺炎感染者数は震源地である中国本土で4万人を超え、死者も武漢在住の日本人も含めて1000人以上に上る。拡大は鈍化したとされるものの、世界保健機関(WHO)はピークに達したとみるのは「時期尚早」との認識を示した。(産経新聞客員論説委員・佐野慎輔)

 7月24日に幕を開ける東京オリンピック・パラリンピックまでに終息するのか。関係者ならずとも気をもむ状況だ。

 競技会開催にも影響

 影響は既に出ている。中国国内で予定されていたオリンピック予選の開催地変更である。バスケットボール女子の世界最終予選第2組は中国・佛山からセルビア・ベオグラードに移して先週、実施された。

 発生の地、武漢で開催予定だったボクシングのアジア・オセアニア予選会はヨルダンで。同じくサッカー女子のアジア最終予選は武漢から南京、そして最終的にはオーストラリアのシドニーでの開催となった。

 選手たちは改めてモチベーションを高めていかなければならない。とりわけボクシングは「減量」という体重制限に取り組む。開催が1カ月延期されたため、当日に照準を合わせていた調整をやり直す必要がある。

 調整といえば、3月に南京で開催予定だった陸上競技の世界室内選手権が1年延期された。世界室内をマイルストーンとしていた選手にとっては予定が狂う。中国での試合出場を予定していたバドミントンや卓球の選手たちも計画変更を迫られた。

 前回取り上げた厚底シューズの問題は、世界陸上競技連盟(WA)が「靴底の厚さ4センチ以内」「(反発力を生み出す)プレートは1枚まで」「大会4カ月前までに一般に市販されている」という新たな規則を定めて一応、決着した。個人仕様にカスタマイズされたシューズは容認されなかったものの、影響を限定的にする決定ではあった。

 選手たちの気持ちもこれで落ち着いたことだろう。さあ、オリンピックに向けて集中。そう思った矢先に、この新型コロナウイルス騒動。心中を推し量るしかできないが、いらだつ状況には違いない。

 五輪に向け対策強化

 必要なことは正しい情報の速やかな開示である。大会組織委員会は対策本部を設置した。橋本聖子五輪相も内閣官房のオリンピック・パラリンピック事務局とスポーツ庁に窓口を設け、競技団体向けの情報共有を行うと明言した。

 ただ情報の開示は日本国内に限ったものであってはならない。国際オリンピック委員会(IOC)や国際パラリンピック委員会(IPC)とも連絡を密にし、対外的に発信しなければ意味をもたない。

 2016年リオデジャネイロ大会では蚊が媒介するジカ熱が蔓延(まんえん)し、正確な情報が得られずに出場を躊躇(ちゅうちょ)する選手や役員、報道陣も現れた。私も予防注射を受け、蚊よけの防護服を買い込んで現地に入った。

 先日も「東京オリンピック・パラリンピック中止」というフェイクニュースが流され、関係者が否定に追われた。SNS(会員制交流サイト)による偽情報の拡散はあってはならない。パンデミックとなりかねない今回の騒動も、発端は情報の封じ込めではなかったか。

 政府はこの大会をインバウンドの起爆剤にと考えている。ならば一層、後手に回っていると思わざるを得ない水際対策を強化するとともに、正確で迅速な情報開示が重要になってくる。

 オリンピック・パラリンピックを開催する大きな役割は、世界に「安心、安全」を保障し、責任を持つということである。

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【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年生まれ。富山県高岡市出身。早大卒。産経新聞運動部長やシドニー支局長、サンケイスポーツ代表、産経新聞特別記者兼論説委員などを経て2019年4月に退社。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大非常勤講師などを務める。著書に『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田畑政治』『オリンピック略史』など多数。

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