論風

高まる火力依存への批判 目覚め始めた日本企業

 早稲田大学名誉教授・田村正勝

 日本は温暖化対策に消極的な国として、国際的な環境NGO(非政府組織)から「化石賞」を贈られ、ドイツの環境NGO「ジャーマン・ウオッチ」は、日本の温暖化対策は、世界58カ国中51位だという。他方で温暖化による2019年の被害の最大国が日本であった。しかし現在100基の火力発電所が稼働し、さらに22基も計画されている。石炭火力発電がベースロード電源の一つとされ、電源構成の30%以上を占める。

 加えて京都議定書の「1990年比6%温室効果ガス削減」を海外の排出分を買うなどにより、形式的にはクリアしたが、2013年時点の日本の温室効果ガス排出量は、1990年比実質10%以上の増加だ。

 ちなみに欧州連合(EU)は京都議定書の6%をクリアし、さらに2030年までに温室効果ガスを1990年比で40%削減して、電源に占める再生エネルギーの割合を45%にするという。これに対して日本の同割合は9.6%にすぎず、水力を含めても17.4%にすぎない。また温室効果ガスを2030年度に、13年度比26%削減の目標を掲げるだけである。

 SRI投資が拡大

 ところで世界では「社会的責任投資(SRI)」が拡大し、環境問題に対する企業の姿勢が重視されている。14年には、SRIが世界の株式時価総額の約50%、21.36兆ドル(約2347兆円)と急拡大した。

 この投資の中でとくに「環境(environment)、社会(social)、企業統治(corporate governance)」に積極的な企業に対する投資として「ESG投資」が重視され、それが16年には22兆8900億ドルに達した。全世界の資産運用残高の約3割がESG要素を考慮し、とくに欧州ではESG投資が6割を占めている。

 日本のSRIは、14年に8500億円(70~75億ドル)で、日本株式総額の0.16%にすぎなかったが、16年には日本のESG投資も、4740億ドルと急拡大した。それでもこれは世界のESG投資総額の2.5%弱にすぎない。SRIやESG投資の対象となる日本の大手企業が少なく、投資信託などの運用会社や金融機関もこれを重視してこなかったからだ。

 自覚的な対策へ

 しかし近年では、温暖化対策に向き合う大手も少なくない。全国銀行協会が18年に「行動憲章」を、国連の「SDGs(持続可能な開発目標)」に対応するように改訂し、3メガバンクは「石炭火力に対する投融資ポリシー」を公表した。また日本政策投資銀行は、企業の環境への取り組みを評価基準とする「格付け融資」をする。

 さらに「再生エネルギー100%」を目指す「国際ネットワークRE100」に、リコーをはじめとする日本の20社・団体も参加し、再エネ100%と二酸化炭素(CO2)排出ゼロを50年までに達成するという。ソニーや東芝など電気機器企業も「企業活動全体での排出量の見える化」を推進している。

 積水ハウスや戸田建設など建設企業の対策も目立つが、大和ハウスグループも10年から「エネルギー自給型ゼロエネルギー住宅」を手掛けてきた。また日産をはじめ自動車業界も燃料電池自動車や電気自動車、ハイブリッドカーにかじを切っている。

 丸紅も石炭火力発電所の新規開発から撤退し、再生エネルギー開発にシフトする。イオンは50年までにCO2排出量ゼロを目指す。食品関係も、複数企業が「共同発送」と「再エネ利用」などで環境負荷を抑える。東京海上やSOMPOホールディングスなど保険業界も環境重視の経営に踏み出した。

 このような趨勢(すうせい)から「二酸化炭素削減の価格付け」の「インターナル・カーボン・プライシング(ICP)」の導入企業が、14年の150社から17年には607社に増加している。

【プロフィル】田村正勝

 たむら・まさかつ 早大大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。同大教授を経て現職。一般社団法人「日本経済協会」理事長。74歳。

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