このテレワークを導入する企業がこれまでなかなか増えなかったのだ。政府は目標(KPI)として2020年にテレワーク制度導入企業34.5%、雇用型テレワーカー15.4%の達成を目指しているが、政府のかけ声とは裏腹にテレワークの導入率は低いままだ。
総務省の「平成30年通信利用動向調査」によると企業のテレワーク導入率は19.1%にすぎない。また、国交省の「平成30年度テレワーク人口実態調査」によると、雇用型テレワーカーの割合は10.8%となっている。
近年はセキュリティを含めたICTの進化とコストの低下もあり、在宅でも社内イントラネットの活用やウェブ会議といったコミュニケーションツールも利用しやすい環境になっている。それでも政府目標には遠いのが実態だ。
「在宅勤務は育児する社員の福利厚生」
なぜここ数年、「働き方改革」が叫ばれる中、「育児・介護」向けとしている在宅勤務を導入する企業が増えないのか。
大手医療機器メーカーの人事担当役員はこう話した。
「テレワーク(在宅勤務)の要諦は生産性の向上にあると思っています。だが実際は育児中の社員のための福利厚生策となっている。それでは生産性の向上には結びつかないので当社では導入していない」
筆者の取材では、在宅勤務の取得理由を限定していない企業でも週1日、月4日程度の利用しか認めていない企業も多い。
在宅勤務をうまく導入し機能させる企業は今後も有望
ただ、今回の新型コロナが企業活動に弊害をもたらし始めている中、在宅勤務に踏み切る企業が増えている。
災害時の在宅勤務とは、自宅を拠点にデスクワークをこなすだけではなく、ICTのツールを駆使して職場の会議や取引先との商談はもちろん、場合によっては顧客先に出向くこともある。感染の拡大によっては長期に及ぶこともある。
在宅勤務制の導入増加は、いわば新型コロナを逆手にとった戦略だ。だ、これまで育児・介護など一部の利用者に制限して制度を運用してきた企業が今回、一般社員にまで制度の利用を拡大して機能させることができるかどうかは不透明だ。
ましてや週に1日程度の在宅勤務の経験しかない社員が、数週間にわたって自宅を拠点にビジネスを継続することは難しいのではないか。結局、在宅勤務を実施しても、長続きせず、出社を命じるはめになってしまう可能性もある。
裏を返せば、在宅勤務をうまく導入し機能させる企業は今後も有望なのではないか。
新型コロナの市中感染の広まりは国民を不安にさせているが、その対策を経営トップがいかにするか。企業の能力を測るリトマス試験紙となっているのかもしれない。
溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。
(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)(PRESIDENT Online)