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ジョブズがアップルに復帰したとき、真っ先に切り捨てたもの (3/3ページ)

 はたして、日本におけるアップル製品の売上は、従来の販売店側の宣言通り大幅に減少したのです。従来から、日本の販売チャネルに不利な状況が生じる改革を行うと、「今年は売らない」と販売店側が日本のトップを威嚇して変革が阻まれるという構図がありました。当時全世界の1割を売っていた日本市場での売上が極端に減るのは、アップルのグローバルな業績にも大きな痛手となったからです。

 ここでアップルの日米トップがディスラプターの真骨頂を発揮しました。スティーブとアップル日本法人の原田泳幸社長が、破壊なくしてアップルの未来の創造はないとの不退転の覚悟で、あえて売上ダウンを想定のうえで販売チャネルのリエンジニアリングを実行したのです。

 こうしたバリューチェーンの一新は、iMacに不可欠でした。というのもiMacの成功要因はデザインとブランドとマーケティングにもありますが、17万8800円という当時としては破格の値段が大きな要素だったのです。それを実現するためには緻密な計算と戦略が必要であり、チャネル・リエンジニアリングはその中で最も重要な要素でした。

 「作用する」者としての意思を持つ

 最高のものづくりを追求するオブセッションと、妥協や迎合は相容れないものです。人の「事情」や「都合」ばかりを考えていては、最高のアイデアは生まれません。また、ストレスや不安のないコンフォートゾーン(快適な空間)に革新は生まれません。何かを新しくすることや変化が起きることに人間は抵抗するものです。

 イノベーションを起こすには、「失敗」を容認するカルチャーがその組織になくてはならないとよく耳にします。そもそも、お膳立てができるのを待って行動を起こす人が、オブセッションを抱くことはないでしょう。そういう人に「最高のもの」が作れるとは思えません。

 最高のものを作るのは、失敗が許されるのか許されないのかという「作用される」側に立つのではなく、「作用する」者としての意志を持って不退転の覚悟で臨む姿勢が必要になります。もし、自分自身が保身にとらわれ、前進することに迷いと恐れを抱いているようであれば、それを断ち切ることから始めなくてはなりません。

 作用する者となるための方法はいくつかあるはずですが、取っ掛かりを作るシンプルな方法が1つあります。最高のアイデアの提案とともに、「進退伺書」をしたためるのはどうでしょう。自身の覚悟の度合いを測ることができ、前進するに際しての迷いが消えます。ディスラプションは、信念を強固にして恐れを乗り越え、最初の一歩を踏み出す勇気を持つことから始まることを忘れてはなりません。

 河南 順一(かわみなみ・じゅんいち)

 同志社大学大学院ビジネス研究科 教授

 マーコムシナジー源 代表取締役。同志社大学商学部卒業、アリゾナ州立大学W.P. Carey School of Business MBA修了。日本マクドナルド、アップルジャパン、すかいらーく、サン・マイクロシステムズ、モービル石油等に勤務。アップルで“Think different”を掲げたブランド戦略の展開、マクドナルドでCEOコミュニケーションの一新を担うなど、ブランド再生や企業イメージの刷新に勤しんできた。

 (同志社大学大学院ビジネス研究科 教授 河南 順一)(PRESIDENT Online)

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