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夏の甲子園も中止へ、球児のケア重要

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 おおよそ40日ぶりのコラム再開である。4月7日に出された新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた緊急事態宣言は、14日に「特定警戒」対象の8都道府県を除く39県で解除された。そろりそろりと逼塞(ひっそく)していた世の中が動き出した。

 きょう最終判断

 プロ野球は6月19日開幕で調整を始めた。サッカーのJリーグも7月中旬の再開を目指している。待ちかねたファンにはうれしい動きである。

 一方、「夏の甲子園」全国高等学校野球選手権大会は中止となる見通しだ。日本高等学校野球連盟(高野連)は20日、運営委員会を開いて最終判断を下す。中止となれば米騒動が起きた1918年、戦局悪化による41年大会に続いて3回目。第二次世界大戦中の42~45年の中断ののち46年に復活し、その後初の事態である。

 3月半ば、「春のセンバツ」選抜高等学校野球大会が中止されたとき、「夏がある」と希望をかきたてた人たちは少なくなかったと思う。球児たち、とりわけ最後の挑戦となる高校3年生は期するところが大きかったと想像できる。

 しかし、いまだ休校している学校は少なくない。オンラインによる遠隔授業は始まっても、部活動は再開されていない。まして都道府県を越えた移動や宿泊に制限が続く状況下、地方大会は開催できても、全国大会開催にはより困難が伴う。判断の大きな要因となろう。

 672億円の最大損失

 センバツに続き、夏も中止となれば影響は大きい。関西大学の宮本勝浩名誉教授は、中止によって失われる経済効果を約672億4415万円と試算。「全てのアマチュアスポーツ大会の中で、最高額の損失であると推定される」と指摘する。

 経済効果とは、例えば甲子園球場でのカレーライスの消費や高校野球グッズの売り上げといった直接効果、カレーライスの原材料やグッズを作る工場の売上増加額などの1次波及効果、そして直接効果や1次波及効果に関係する企業や店舗などの売り上げ増に伴う経営者や従業員による消費活動の増加額である2次波及効果を合わせた額を指す。宮本名誉教授は地方大会に約3700校が参加すると仮定。直接効果と1次波及効果で約510億5574万円、2次波及効果で約161億8841万円、合わせて約672億4415万円の経済効果が失われるとした。

 中止になればと前置きした宮本名誉教授は、球児たちの心をこう思いやる。「高校球児にとっては、大会の中止はこれらの金額をはるかに上回る生涯の希望の損失となるだろう」

 人生の多感なときに受ける衝撃。球児たちの心のケアが重要である。いまほど、社会を挙げた支えが必要なときはない。

 さまざまな屈託を抱えてスポーツ界も動き出す。せめて選手たちの活躍によって人々の心に明かりをともしてほしい。

                  ◇

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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