高論卓説

コロナ禍で加速しそうなデジタル通貨 大事なのは“使われるもの”であること

 日本はじっくり利便性高めたい

 新型コロナウイルス感染症の流行によって、通貨のデジタル化が身近に感じられるようになった。スーパーマーケットに行けば、レジの店員は手袋を装着し、お金は直接手渡しせずにトレイの上に一旦置いてから受け取るようになった。

 さらにレジではクレジットカード決済の機械が目立つようになった。以前は、程度の差こそあれ、カードの使用にはサインや暗証番号の入力を求める店が多かったが、最近は少額決済ではカードを差し込むだけの形態が増えてきた。カードの抜き差しも顧客が自身で行い、レジの店員との接触は完全に排除されようとしている。正確な統計はないが現金での支払いはかなり減ってきた印象を受ける。

 この間、世界では米フェイスブックが推し進めるリブラをはじめとするデジタル化された「ステーブルコイン(価格が安定した仮想通貨)」の実用化も確実に進捗(しんちょく)しつつある。

 リブラは昨年の計画発表時に各方面から猛反対を受けたこともあり、今年4月には、以前の全く新しい通貨リブラの創設から、とりあえずは各国の単一通貨のデジタル版へと実質上のスペックダウンを発表した。

 ただし複数通貨で構成されるバスケットも健在で、それは「米ドル、ユーロ、英ポンド、シンガポール・ドル」の4通貨で構成されるとあり、日本円はなぜか入っていない。

 リブラ協会のホームページによると協会の構成メンバーには日本企業が入っておらず、シンガポールの政府系ファンド、テマセクが新たにメンバーに入っている。

 リブラは年内にスタートしたいとしている。世界で27億人のユーザーを持つフェイスブックが動き出したときに日本円がデジタル化で出遅れないか、携帯電話のガラパゴス化の記憶もあり少し心配なところだ。

 中国では民間ではなく中国人民銀行が深セン、蘇州、雄安、成都の4都市で中央銀行デジタル通貨(CBDC)のデジタル人民元の試験運用を先行しており、将来的に2022年の冬季オリンピック会場において試験運用を行うと明言している。

 中国では既にアリペイやテンセントが提供するウィーチャットペイなど民間のデジタル通貨が一気に普及した経緯があった。人民銀行はこれら既存のデジタル通貨に対して「網聯」と呼ばれる統一された決済機関を設立し、必ず銀行と情報をやり取りすることで集中管理しデジタル人民元との併存を図る。中国のCBDCは中央銀行があり既存の銀行も残る二層方式というやり方で、既に方向性が固まり実行するのみの状況にある。

 日本国内では、CBDCなどのデジタル通貨の決済インフラの実現を目指すための検討会が発足した。みずほ銀行や三菱UFJ銀行、三井住友銀行のほか、われわれになじみ深いSuica(スイカ)のJR東日本やNTTグループ、セブン&アイ・ホールディングスなどが参加する。協力会社にはアクセンチュアとシグマクシス、オブザーバーとして日本銀行や財務省、金融庁などが加わる。

 リブラや中国のCBDCも含めたステーブルコイン実用化はコロナ禍による人と人との接触回避の傾向もあり加速しそうだ。だがドルや人民元のように通貨覇権の競争下にない日本円の立ち位置でいうならば僅差のタイムレースをしているわけでもない。使われるものであることが一番大事だ。ユーザーにとって利便性の高いフレンドリーなステーブルコインの実用化が望まれる。

【プロフィル】板谷敏彦

 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。

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