高論卓説

医療界も進化すべき時代 「人を診る」新型コロナで変容

 私は群馬県内のある病院に非常勤の皮膚科医として勤務している。この病院では新型コロナウイルスの感染拡大が騒がれはじめて早々に発熱外来を開設、疑い患者の入院体制も整えて対応を始めていた。(永井弥生)

 4月初旬、県内の有料老人ホームで集団感染が発生、最初の陽性者を確認してから1週間のうちに全入居者が病院に入院となった。感染症指定病院のみでは受け入れきれず、そのホームからはかなり遠方である私の勤務する病院でも複数の患者を受け入れた。

 そしてまもなく、看護師などへの感染が確認され、外来や新規入院受け入れが休止となった。全職員に順次PCR検査が行われ平常に戻ったのは3週間後であった。

 問題が発生した後は、事実と客観的検証がなされる。感染対策はきちんととられており、老人ホームの入居者は食事の介助などを要する点からは職員のリスクが高かったと考えられた。

 誰もがさまざまなコンフリクト(対立や紛争のみならず、自分の中の不安、葛藤、違和感など)を感じた数カ月であっただろう。医療者にとっても思うように検査ができない状況、不安を訴える患者への対応、自身の感染への不安、葛藤は多大な影響を与えた。

 さらなる大きなコンフリクトは「コロナハラスメント」である。病院では「コロハラ」の言葉は共通言語となっていた。「あの病院職員の家族だから」と他の病院の外来や入院を断られる、登校・登園を拒否されるといったことが起こった。

 先方にしても自分たちの施設を守ることは必要である。極端な防御や発言は問題があるが、さまざまな状況は理解でき、まだ事実が判明しない時点で境界線を引くことは難しい場合もある。しかし、病院で不安を感じる仕事に加え、家族にまで及ぶ社会的な差別は心理的に大きな負担となる。

 こういったコンフリクトから職員を守る、メンタルケアは組織として重要な問題である。不安は情報不足から生じる。前述の病院においては、日々の情報が全職員に伝達されるシステムが構築され、重要な話がトップから直接伝えられる組織の体制は、職員のケアにつながっていた。

 しかし、その後に起こるのは経営上の問題である。患者受け入れ休止だけでも収益上は大きいが、通常に戻っても患者は病院へ来るのを控えがちになった。多くの病院やクリニックで、患者が減少するという事態が起こっている。

 不要の受診もあったかもしれない。患者自身で受診を最低限にする、予防に力を入れるという意識が増すのは好ましいことである。だがそのため医療機関の減少につながって、新型コロナ騒動の当初のように、体制が不十分な状況での患者対応から不幸な結果を招くことがあってはならない。

 このあたりのバランスは、医療政策の問題と絡み、医療界だけで考えられるものではない。生活様式の変化、人の意識の変化はあらゆる分野に影響している。以前と同じには戻らないのは医療界でも同じである。オンライン診療も進められているがメリット・デメリットがある。「人を診る」仕事である。オンラインならではのリスクを承知の上での医師-患者関係を築かなければならない。

 医療界もより社会に目を向けて変化すなわち進化、そして発信すべき時代となったのである。

【プロフィル】永井弥生

 ながい・やよい 医療コンフリクトマネージャー。医学博士/皮膚科専門医。山形大医卒。群馬大学病院勤務時の2014年、同病院の医療事故を指摘し、その後の対応に当たり医療改革を行う。群馬県出身。

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