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インバウンド効果が失われていく… コロナで勢い鈍化

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 新型コロナウイルスの感染拡大がなければ、いま2020東京オリンピックの聖火は首都圏をリレーされている。参加各国・地域の選手団が次々と選手村入り、観戦客の訪日が続く。開会式が近づき、盛り上がりぶりは連日、大きく報道されているはずだった。言っても詮無(せんな)いが、コロナ禍がうらめしい。

 観戦の合間に観光も

 6月24日、日本ラグビー協会はワールドカップ(W杯)2019日本大会の経済効果に関する分析リポートを発表した。オンラインによる公表は盛り上がりに欠けたものの、経済波及効果6464億円には目を見張った。

 組織委員会が当初公表した経済波及効果は4370億円。それだけでも過去最高だった前回15年イングランド大会の約3100億円を上回るが、さらに大幅に上方修正された。史上初めてベスト8に進んだ日本代表の活躍が社会現象となり、好試合も続出、数字を押し上げたことは言うまでもない。分析にあたった大手会計事務所「EY」によれば、税収拡大効果は412億円、雇用創出効果は4万6340人に及んだ。

 このラグビー史上最高の経済波及効果を牽引(けんいん)したのが訪日観戦客である。リポートによると期間中、約24万2000人の訪日があり、消費は3482億円と全体の5割超に上る経済波及効果をもたらした。訪日観戦客の平均滞在日数は16泊、18年訪日外国人客の平均6日の約2.7倍である。1人当たりの消費金額は68万6117円で、1泊にすると4万2644円。18年訪日外国人の2万5056円の約1.7倍となった。

 1人1泊当たりの消費金額が高く、滞在日数も長期間に及んだことが経済波及効果を押し上げた。かねて指摘されてきた国際スポーツイベントにおけるインバウンドの重要性をラグビーW杯が実証したわけである。

 効果は開催都市だけにもたらされたわけではない。EYではチケット購入者にアンケートを実施、訪日観戦客の行動を分析している。各都道府県への訪問率では、観戦目的の訪問が東京、神奈川、大分、静岡、兵庫、福岡、大阪の順。観戦以外での訪問を加えると東京、京都、大阪、広島、神奈川、大分、兵庫となる。開催都市ではない京都と広島、さらに奈良が上位に食い込んだ。1人平均4.8都道府県を訪れ、滞在中に試合と試合の合間を活用、著名観光地に足を延ばしたことが見て取れる。EYの担当者も「メガイベントによって開催時のみならず、将来のインバウンド効果も生み出される可能性」を指摘する。

 コロナで勢い鈍化

 訪日観戦客が実施した行動様式では、(1)日本食を食べる(2)ショッピング(3)日本の酒を飲む(4)自然・景勝地観光(5)日本の歴史・伝統文化鑑賞-などが上位を占めた。また約24万人の訪日観戦客の内訳は、欧州からが約13万人と圧倒的に多く、以下、オセアニア約5.4万人、アジア2.2万、北米約1.7万人と続く。ラグビーならではの特徴だといっていい。

 これら訪日観戦客の再訪意向も調査された。初来日は約59%。訪日満足度は85%が「大変満足」と答え、12%が「満足」と回答。97%の訪日客が日本を満喫したことが分かる。ちなみに「必ず来たい」と75%が再来訪の意向を示し、12%が「来たい」と答えている。ラグビーW杯は、まさに「観光立国・日本」を推進する政策と合致していたといっていい。

 2020東京大会はそれに続くはずだった。コロナ禍による延期で勢いがそがれ、インバウンド効果も薄れかねない。中止となれば逆に重い負担ものしかかる。メガスポーツイベントの持つ可能性を知っただけに、なお続く世界の混迷がうらめしい。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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