高論卓説

プラごみ再利用に向けた企業連携 スピード重視で国や地方を巻き込め

 内燃機関で走行する自動車とともに、地球環境にネガティブな影響を与えているのがプラスチックだ。地球温暖化の原因となる石油由来の原料を使用している上、プラスチックごみが海洋に流れ込むと、生態系に甚大な影響を与える。(永井隆)

 こうした中、サントリーホールディングス(HD)や東洋紡、レンゴーなど12社は、プラスチックごみを再利用する技術を開発する新会社「アールプラスジャパン」を設立、事業を開始した。他の出資会社は、東洋製缶グループHD、J&T環境、アサヒグループHD、岩谷産業など。住友化学も出資を検討しているという。

 業界の垣根を越えた連携により、2027年の商業化を目指す。プラントを設備し事業展開を希望するオーナーに対し、技術ライセンスを供与して収益を得る事業プランだ。

 サントリーHDは11年、使用済みペットボトルをリサイクルして新たなペットボトルに再生する「メカニカルリサイクル」を、樹脂再生加工の協栄産業(栃木県小山市)とともに開発し、国内で初めて実用化した。再生ペットボトルは、自社商品向けだけではなく、キリンビバレッジにも供給している。

 今回、アールプラスが開発を目指すのは、プラスチックを分子レベルまで分解して再生する「ケミカルリサイクル」と呼ばれる技術だ。比較的きれいな状態で回収されるペットボトルに限らず、ごみとして廃棄されるレジ袋や食品フィルム、トレーなども粗原料となって再資源化が可能になる。

 メカニカルリサイクルに比べ、ケミカルリサイクルはプラント建設に巨費を必要とし、あまり普及してはいない。しかし、熱分解する油化工程を削減させることで、低コストなケミカルリサイクルを実現できる見通しだ。植物由来原料100%のペットボトルを12年からサントリーHDと共同開発する米化学ベンチャーのアネロテックが、その開発過程で触媒反応を応用したケミカルリサイクル技術を見いだした。

 アネロテックはテキサス州に実証プラントを持つが、植物由来原料(木材チップ)からベンゼンなどを生成する従来設備は、一部の改良だけでケミカルリサイクルにそのまま使える。しかも、種類の異なるプラスチックごみが混ざった状態、さらに米粒が残った弁当容器でさえも、効率的に粗原料への再生を可能としたのが特徴。アールプラスは資金面でアネロテックの開発を支援していく。

 サントリーHDの新浪剛史社長は、「重要なのは民間企業が集まって始めたということ」と指摘する。まずは行動して、やがて国や地方を巻き込んでいくスピード重視の作戦だ。

 数多くの企業が集まったプロジェクトには、1960年代の旅客機「YS11」、80年代の国産OS(基本ソフト)「トロン」などがある。特に坂村健東洋大教授が東大助手時代に提唱したトロンは、組み込み型OSとして自動車や家電製品、生産機械、衛星など幅広く世界中で利用されている。

 プラスチックごみをプラスチック材料に何度でも再利用できるという、日本と米国の共同開発技術が、海洋を含めた地球環境に大きく貢献する。そのためには、スピードとともに、出資会社間の価値共有や経営のリーダーシップも重要になっていく。

【プロフィル】永井隆

 ながい・たかし ジャーナリスト。明大卒。東京タイムズ記者を経て1992年からフリー。著書は『移民解禁』『EVウォーズ』『アサヒビール 30年目の逆襲』『サントリー対キリン』など多数。群馬県出身。

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