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東京ドームの大改修計画が投じた石 国際認証導入の動きも

 尚美学園大学教授・佐野慎輔

 沈静化しつつあった新型コロナウイルスの感染が、再び拡大傾向にある。プロ野球やJリーグ、大相撲は5000人、もしくは定員の半数の少ない方という条件で有人試合を始めた。しかし、4月の緊急事態宣言前の数値を上回る感染者数増加は、微妙に影を落としている。

 より一層、感染防止策の徹底が求められるなか、読売巨人軍と東京ドームが注目すべき発表を行った。「世界トップレベルの清潔・安全・快適なスタジアムを目指して」と題した東京ドームの大改修計画である。

 変化する野球観戦

 1988年3月、日本初の屋根付き球場として開場以来32年。これまでも改修は行われてきたが、今回は総額100億円を投入する大規模改修となる。

 既にコロナ対策として、選手エリアおよびVIPエリアへの紫外線照射装置を設置。2階スタンドの飛沫(ひまつ)が落ちないための「透明ひさし」や手洗いスポットの増設も完了した。

 清掃の徹底とともに、サーモグラフィーによる検温や「東京ドーム・アラート」と呼ぶ追跡システムを構築。28日の試合から導入された。

 今季はまた空気の滞留解消のためコンコースに大型送風機30台を設置、来季に向けてさらに換気能力を約1.5倍に引き上げていくという。これによって観客席付近の空気が1時間に3.7回換気される。「清潔、安全」に関わる方策だ。

 私が注目しているのは、「完全キャッシュレス化」であり、スマホチケット導入による「入場チェックの電子化と自動ゲート」の実現である。日本では政府がポイント付与を特典として推進したキャッシュレス化だったが、依然進んでいない。必ずしもグローバル社会が全てとは思わないが、世界の趨勢(すうせい)からの取り残され感は否めない。

 東京ドームでは「生体認証決済」の実証実験を試しながら2022年の完全キャッシュレス化を目指す。海外観光客集客への対応と取引時間の短縮、および現金取引で生じる接触機会の削減は「ウイズ・コロナ時代」に一石を投じるだろう。バーコード読み取りによる自動ゲート化も同様である。

 さらに注目すべきは、2階内野コンコースに設ける「マス・スイート」と呼ぶスイートルームの新設。ウイズ・コロナあるいはアフター・コロナの時代、観客動員は従前に復するとは思われない。観客動員数が減る分だけ、客単価を上げる必要がある。8部屋設ける高額半個室が効力を発揮しよう。

 バックスクリーンに設置されているメインビジョンは現行面積を3.6倍に拡大。映像、音声とも迫力が増す。AI(人工知能)やVR(仮想現実)といったデジタル技術の革新と変化していく野球観戦形態への備えと言ってもいい。

 国際認証導入の動き

 スポーツ観戦がビジネス化している米国ではこうした取り組みは施行済み。コロナ禍以前、既にキャッシュレス化や自動チケットが進み、衛生面では基準を設けた安全性の確保が広がっている。国際安全衛生センター(ISSA)の傘下組織、グローバル・バイオリスク・アドバイザリー・カウンシル(GBAC)の認証制度導入がそれにあたる。清掃、消毒などの基準をクリア、感染症予防プログラムの学習などを通して認証を受ける。キャッシュレス化もまたここに含まれる。

 安全性を担保する認証制度が、ウイズ・コロナ、アフター・コロナ下での大規模イベント実施や観客動員を左右するとも言われている。日本では対応がホテル業界にとどまり、欧米、さらには中国や韓国での取り組みからも後れを取っている。東京ドームの大改修は、大きなマイルストーンになるのではないか。密かにそう思っている。

【プロフィル】佐野慎輔

 さの・しんすけ 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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